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仙台幻視行(その1)
1.とある12月の日曜日:
伊丹空港から仙台に飛んた。
離陸のとき整備員が手を振ってくれた。
行ってくるよ~。
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生まれて初めての仙台。
まず何はさておき牛タンを食べた。
これが仙台に来た大きな理由のひとつだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1704269549159-rIZGcjQiQC.jpg?width=800)
JR仙台駅で途方に暮れた。
駅から地上に降りられないのだ。
なにしろ駅を出たらいきなり二階なのだ。
巨大なテラスから、
タコの足よりも多い歩道橋が、
地上に延びていて、
どこを降りればどこに行けるのか、
サッパリ分からないのだ。
おかげで詩の朗読会に遅れてしまった。
朗読会に行くことが一番の目的なのだ。
仙台空港で食べた牛タンの感動もぶっ飛んだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1704451845339-setV58wlcH.jpg?width=800)
朗読会はもう始まっていた。
狭い会場だった。
私が遅れて入ってきたことなど、
誰も気にしない。
気にしてくれない。
詩人がドラムと怒鳴りあっていた。
詩人の声がドラムの音にかき消されそうだ。
ほとんど聞き取れない。
なんだかろれつも回っていない。
大丈夫か?
言葉なんか聞こえなくていいんだ。
言葉が消えて初めて詩が生まれる!
詩人はそう言った。
あぁ、私は詩人にはなれない。
![](https://assets.st-note.com/img/1704452345460-DWMD5fVnM5.jpg?width=800)
外に出た。
夕方になっていた。
仙台のメタセコイアは黄色だった。
神戸のメタセコイアは、
今頃は純情そうに赤く染まっているだろう。
仙台のメタセコイアさんごめんなさい。
別にあなたがすれっ枯らしだと、
言っているのではありません。
イチョウと見紛うほど黄色かったので、
驚いただけです。
正直ちょっとぶったまげました。
![](https://assets.st-note.com/img/1704532045622-EXYFUAmGi9.jpg?width=800)
懇親会があるので参加したい人はどうぞ、
会費は4500円です。
詩人の声に釣られて後を付いて行った。
(本当は最初から参加するつもりだったけど)
脊椎を圧迫骨折していて腰が痛くて歩けない。
そう言い残して、
途中まで一緒に歩いていたおばあさんは、
タクシーに乗って先に行ってしまった。
会場は仙台駅の構内にある中華料理店だった。
「中嘉屋食堂 麺飯甜」。
何と読むんだろう?
テーブルが3卓用意されていた。
私は真ん中のテーブルにした。
あのおばあさんが何故か私の隣に座った。
![](https://assets.st-note.com/img/1704616755418-cpGNElEsf7.jpg?width=800)
うちのおとうさんは家でなんにもしないの。
朝昼晩のご飯全部私に作らせて、
自分は寝転んでテレビを観てるだけ。
それで夕方の5時にはもう寝てしまうの。
そしたらひとりで何もすることがなくなって、
わたしも6時頃には寝るのよ。
でもおとうさん静かに寝かせてれないの。
夜中にしょっ中起きだしてトイレに行くの。
それに鼾もうるさいし。
だから別の部屋で寝てるの。
オレは毎日朝メシを作っているぞ、
食べた後は食器を食洗器に入れているぞ。
と心のなかでつぶやきながら、
私はおばあさんの話を笑いながら聞いていた。
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おばあさんは親切な人で、
いろいろ私の世話を焼いてくれた。
料理は取ってくれるし、
ビールはついでくれるし。
ただ問題があった。
取ってくれた料理はお皿からこぼれるし、
ビールはコップからそれてテーブルにこぼれるし、
そこら中びちゃびちゃになった。
私は笑い顔をこしらえるしかなかった。
おばあさんは仙台に住んでいると言う。
圧迫骨折で腰が痛いのに、
歩いてホテルの前まで私を案内してくれた。
頭がさがる。
なのに、ありがとうしか言えなかった。
ホテルにチェックインすると、
サービスに「アパ社長カレー」を貰った。
予約した部屋は想像を絶する狭さだったけれど、
カレーの箱を見ただけで嬉しくなった。
あぁ、私は詩人にはなれない。
![](https://assets.st-note.com/img/1704617020831-hdDgdWx86V.jpg?width=800)
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