西岡泉

おもに詩を書いています。あとはプータローしています。

西岡泉

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秋に手紙を出してきた(詩集版+動画)

秋に手紙を出してきた 時候の挨拶は 省略した いつまた会えるか 分からないから 夜の藍色のインクで 手紙を書いた インクが乾く頃 手紙は風に乗って 配達されるだろう 秋の住所は不明にしても 自分の目で見ていないものは 詩には書けない 目に見えないものを 言葉にできなければ 詩ではない うまくいったためしなどない 思い切って口にすると 忘れていた歌を 想い出すことがある たとえば ズー・ニー・ヴーの 『白いサンゴ礁』 言葉が 想い出を運んでくるのか 忘却の深さが 言葉を想

    • 名前がうまく書けなくても

      自分の名前がうまく書けなくなった 人生で一番たくさん書いてきたはずなのに 書くたびに下手くそになる 西なんか書き順がいいかげんになってしまって 四みたいに見える これじゃ西に向かって歩けない 岡なんか冂が縮こまってしまって 山が冂の中にうまく入らない これじゃ岡の上に登れない 泉なんか白が臼みたいになってしまうし 水は木みたいになってしまうし これじゃ西の岡にある泉のほとりで眠れない 君に手紙を書いた PS 愛してる にしおか いずみ  なんか嘘っぽい 出すのをやめた 氏名

      • 私は私でなくてもいい

        私は私でなくてもいい 君が君でないのなら 私は私でなくてもいい 「汚れつちまつた悲しみ」で焚火ができるのなら 私は私でなくてもいい 夢のなかに入って朝まで眠れるのなら 私は私でなくてもいい プーチンやネタニヤフを刑務所に送れるのなら 私は私でなくてもいい 夕陽が沈んでばかりいる理由が分かるのなら 私は私でなくてもいい 蚊が私を放っておいてくれるのなら 私は私でなくてもいい 高校生の君に会えるのなら 私は私でなくてもいい 翔という字を辿って行くと空に届くのなら 私は私でなくても

        • バニラスカイ

          バニラアイスのように 朝が溶けていった さっきまで夢を見ていたことなど忘れ 私は真新しい擬態を始める 朝はいつまでも夜明けではない 見かけよりもはやく 壊滅の水位がせり上がる 決壊の穴を塞ぐことができるのは 詩ではない言葉だ 詩は言葉でなくてもいい 人生初めての光景を 見せることができるのなら 頭のなかには知らないことばかり ぎっしり詰まっている 天然オパールには地球が埋まっている 見つめてみつめて身悶えする 高知県香美郡土佐山田町 南を流れる物部川で 中学生の元ちゃん

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        秋に手紙を出してきた(詩集版+動画)

          塁上の孤独

          私は9人家族の一番目だ 一番先に産まれたわけではない 一番目に家を出るのが役目というだけだ とにかく最初に家を飛び出して 原っぱを駆け回り 無事に家に帰って来なければならない 原っぱには私を殺そうと 敵の9人家族が散らばっている そのひとりは私たちの家のすぐ前で座り込んでいる 原っぱには途中で休める地点が3カ所ある 休めるからといって油断はできない いつ敵に刺されるか分からない 一番安全なのは 相手が投げてくる牛の皮で包まれた球を 木の棒でひっぱたいて柵の向こうに放り込むこと

          塁上の孤独

          眼球譚

          ― 註のふたつあるモノローグ ー 洗面器から眼球を拾いあげた まえまえからいつかはこいつを この目でみてやろうと思っていた こうしてじかに手にとってみると 充血していていかにも汚いねェ いったい目玉としてこの世に生まれてこのかた なにをみてきたのかね 女の尻と顔の相関曲線の作成に 血まなこになるのもいいけれど たまには夕陽のスペクトルで角膜の 洗浄をしてみてはどうかね みることは奪うことだ と いつかいっていたね みることにかけてはとてつもない怪物だった あのマルテを気

          夕日はいつか赤くなれ

          夕日は赤くない やっと気がついた 夕日は金色に光る鏡だ 地平線に沈む前に 空の粒子をオレンジ色に燃やす ただし、 アフリカの夕日は本当に大きくて チョベ川に架かる空が真っ赤になる 言葉で人の気をひこうとしたら おしまいだ 文字になるずっと前から 言葉は人の気をひこうとばかりしてきた なぜ私たちの社会は 姑息で身勝手な人間たちに たやすく牛耳られてしまうのか 夕日が沈んだ後も まだ明るい東の空に 白い飛行機雲が残っていた 飛行機は空に何か言いかけていた 私は藍色の海をひと

          夕日はいつか赤くなれ

          こっそり合唱団

          (歌の好きなすべての人に) ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 ひとりこっそり歌うんだ 夜にこっそり歌うんだ 楽譜なんか読めなくていい 歌の上手い下手なんか関係ない ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 入団資格はひとつだけ さみしい心をもっていること 団員規則もひとつだけ 人前で歌わないこと ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 集まって練習なんかしなくていい 心は波になって 夜の空を渡るから 心配なんかしなくていい ぼっ ぼっ ぼくらはこっそり合唱団 ひとりカラオケで

          こっそり合唱団

          アンド・アイ・ラブ・ハー

          雲の端が金色に縁どられていた 夕陽が丸い鏡のように光っていた やり遂げたことより やり遂げられなかったことを大切にして と君が言った 君と生きてゆくこともできたのに 一緒に住むことも 君は最後まで本心を言ってくれなかった ずっとそう思っていた 君は言おうとしていたんだね あのとき聞こえたのは 悲しいときに泣いている あの声ではなかった 言ったことよりも 言わなかったことのなかに ほんとうの心があった 今になって気が付いたよ 雲がピンクに染まり 薄明かりがさしたあと 空は

          アンド・アイ・ラブ・ハー

          朝の7時頃夢をみた

          トイレに行ったら タケシが先に入っていた 自転車で駅まで送って行ってよ いつの間にかスーツに着替えていたタケシが言った タケシを乗せて自転車をこぐのは重たいなあ 嫌やなあ 大雨が降って来た 玄関閉めてきて ミチの声 土砂降りの雨で 大きな渡り廊下がびしょ濡れになっていた 海を泳いでいた 横で白いテリアが懸命に泳いでいた 海の端まで泳いだ 向こうにまた海が見えた 「海だーっ」と犬が叫んだ 犬は子供の頃のタケシになっていた ユウマだったかもしれない 子供の頃に戻ったタケシのような

          朝の7時頃夢をみた

          僕の装備品

          君のことを愛したいのに どうしても愛することができない せめて友だちでいたい でも君は 僕の言うことなど聞きもしない いきなり襲ってくる 刺せるところならどこでも刺してくる 僕も仕方なく 身を守る 先制攻撃だってする お互いに相手を尊重し合おう 自分とは違う生き方も認め合おう 君のことを理解しようとした これまでのことを水に流そうともした ブーンという音がすべての努力を台なしにする キンチョールにフマキラー 虫コナーズにアースノーマット 蚊取り線香に虫除けスプレー アフリ

          僕の装備品

          兵隊だったことがある

          JR灘駅を 山側に歩けば王子公園に 海側に歩けば 私が毎日働いていた会社に 行き着く 灘駅から会社に向かう道の途中に 肉とマッコリがたまらなく旨い焼肉屋がある 毎朝八時から九時前まで 何百人という社員がその店の前を通った ザッ ザッ ザッ ザッ 兵隊さんが行進してるみたいやったで あんたらの足音 韓国人のおばちゃんが私に言った オレは兵隊だったのか オモニ ひとは殺さずに 自分を殺していたよ 何かを忘れて足踏みばかりしていた 殺した自分を取り戻さなければ 割が会わない い

          兵隊だったことがある

          又三郎のいうことには

          さわやかな九月一日の朝 小学校の窓ガラスをがたがた鳴らせて 風の又三郎が帰ってきた ゴーシュがもうセロを弾けなくなったぞ 年取って指が動かねえって シューマンのトロメライも 弾けねぇって そういう又三郎もずい分年を取って 風のマントがよれよれになっていた 杖をついた三人の老人たちが 教室に集まってきた 嘉助と佐太郎と耕助だった これからゴーシュのところに行くぞ イギリス海岸に沿って町に向かい 注文の多い料理店には目もくれず 活動写真館にみんなが辿り着いた頃には あたりは暗

          又三郎のいうことには

          雨の神

          雨の日も椋鳥は鳴く 欅の枝に群れに群れ 鳴くに鳴く 世界中の欅の葉を集めたよりも多く ただ 鳴くに鳴く まるで 打ちまちがえたメールが 空を飛び交うように 少女は心を折り畳んで 雲母のように光る小箱にしまう 涙が渇いても まだ残っているものがある ぼくが君だった頃 ため息には価値があった 昼間に 空に飛んで行った魂が 夜には欅めがけて帰ってくる 君はまだ泣くことができるだろう? 血管の中には 涙の成分が流れているから 椋鳥は鳴け 空に隠れていた雨の神が 寝ぼけた顔を出す

          採集する夏

          桃をかじったあとは 執念深い繊維が歯にからみつく いつもこうだと思いながら 唾を吐く 道の真中を歩いたら雷にうたれるきに 注意しいや 祖母は しゃぶりつくした魚の骨を 冷や飯の上にのせて 茶漬けにして食べていた 高知県香美郡土佐山田町 八井田病院のみえる川辺で ぼくはアオハダトンボをまちうけていた 青い半ズボンに木綿のランニングシャツ 肩には三角罐をかけている (木綿ではなくナイロンのシャツだったような気もする) 食欲と好奇心だけでよく生きれたものだ 風に砂が舞う砂漠の

          採集する夏

          ありのまま

          ありのまま ありのまま 人間の子供に捕まって コップの底に沈められそうになったことがある 子供が勉強部屋に戻った隙に キッチンから逃げだした 玄関の隅に隠れていた トノサマバッタの背中に乗って 命からがら 庭の草むらへ飛び込んだ 逃げ遅れた友達は キュキュット除菌洗剤の泡を全身に浴びて ステンレスの流し台の上で 息絶えていた ありのままでいることはキケンだ いつ人間にひどい目にあわされるか分からない ありのままでいられなくて 毎日のように学校をさぼっていた もう人間には戻

          ありのまま