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秋に手紙を出してきた(詩集版+動画)

秋に手紙を出してきた
時候の挨拶は
省略した
いつまた会えるか
分からないから

夜の藍色のインクで
手紙を書いた
インクが乾く頃
手紙は風に乗って
配達されるだろう
秋の住所は不明にしても

自分の目で見ていないものは
詩には書けない
目に見えないものを
言葉にできなければ
詩ではない
うまくいったためしなどない

思い切って口にすると
忘れていた歌を
想い出すことがある
たとえば
ズー・ニー・ヴーの
『白いサンゴ礁』
言葉が
想い出を運んでくるのか
忘却の深さが
言葉を想い出させるのか

秋に手紙を出してきた
最後に
敬具を付けておいた
透明な永遠を添えて

 (詩集『月のピラミッド』第5章「再生のための十篇」より)



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