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採集する夏

桃をかじったあとは
執念深い繊維が歯にからみつく
いつもこうだと思いながら
唾を吐く

道の真中を歩いたら雷にうたれるきに
注意しいや
祖母は
しゃぶりつくした魚の骨を
冷や飯の上にのせて
茶漬けにして食べていた

高知県香美郡土佐山田町
八井田病院のみえる川辺で
ぼくはアオハダトンボをまちうけていた
青い半ズボンに木綿のランニングシャツ
肩には三角罐さんかくかんをかけている
(木綿ではなくナイロンのシャツだったような気もする)
食欲と好奇心だけでよく生きれたものだ

風に砂が舞う砂漠の稜線を
僧侶たちが歩いていた
テッキシュウライ
クウシュウケイホウハツレイ
テッキシュウライ
クウシュウケイホウハツレイ
読経と線香のうさん臭さ
つられて飛びまわる極楽トンボ
八月は黄泉よみがえりの季節

森に踏み迷ったのは
人生のまだかけだし
 ― この門くぐれば夢の地獄めぐり ―
占いはことごとくはずれ
桃の繊維はまだ歯にからまっている

記憶はいつも現在形
少年たちの夏休みは
異郷に分け入る昆虫採集
つかまえた虫たちには
忘れずに酢酸メチルを注射しておくこと
大人たちのために
少し注射液をのこしておくこと


(詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第4章「夏を採集する」より)
 note投稿に際し一部改訂した。


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