記事一覧
211-220|#140字小説
211 / 2019.01.10
ぎんいろの光がねむるきみの髪を攫う。寝顔を眺める月と私。頬を突けば、きみはうにうにと唇をうねらせた。月が綺麗だね。幸せな空耳に、この夜に理由をしるす手つきで窓の滴を拭う。濡れた指、ぎらぎらと光り合う私たち。瞼裏のような暗闇はきっと愛の終末で、ねむり続けるきみが少しいとおしかった。/ 花を摘む夜のこと「瞼」「終末」
212 / 2019.01.12
すこし弛んだき
201-210|#140字小説
201 / 2018.12.10
きみは海が好きなのか。@マークより前の「sea」をなでて、今更にメールなんて送ってみたら、メールなんかが返ってくる。〈海が好きなの?〉〈海も好きだよ〉〈他には何が?〉〈明日会ったら教えるね〉いつまでも、Re:Re:Re:と繰り返される鳴き声は真夜中の産声。過不足なく、ふたりで続ける真夜中の。
202 / 2018.12.11
深夜と深海の深さはきっと同じで、湿っ
191-200|#140字小説
191 / 2018.11.27
温めたぎゅうにゅうは膜が張って、剥がせば真っ新の水面がひとつ。この膜、たんぱく質なんだって。へえ、じゃあおれそれでよかったのに。「人間より、感情があるたんぱく質の塊より全然いい」軽率なきみは服を脱いで、陶器のような素肌を生み出す。どんな物質でもよかった。不服だけれど、きみならば。
192 / 2018.11.29
数学のプリントに唸るきみ。「わからないの?」「も
181-190|#140字小説
181 / 2018.11.09
あなたが死んだ後を空想する癖があった。ひとりのままの私、ひとりではない私、いろんな場合を考えて、どれもやはりかなしかった。遅起きなひとが挨拶をしながら私を抱きしめる。どうして生きているの。そう言えば「ごめんね」と笑われる。あなたがいる、まぼろしのような当然に、ぎゅ、と目が眩んだ。
182 / 2018.11.11
きみが死んだら花となって、隣で咲ってあげる。戯言
171-180|#140字小説
171 / 2018.11.02
蛇口が錆びていた。転がっていたタワシで擦ってみても、随分と銀色に執着をしているよう。こうばしい香りに振り向けば、珈琲を持ったきみが「きたない」と私を咎める。そのカップだって茶渋がついていたけれど。呑み込んだ言葉は鉄のにおいがした。錆び付いている、ここもかしこも、私も、きみだって。
172 / 2018.11.02
水平線を眺めた。となりの、横顔のまつげが海面に消
161-170|#140字小説
161 / 2018.10.24
すぐに絶望するあなたが好きだった。怖い、とふるえるあなたを抱きしめて、か弱い背中を撫でる。濡れる肩筋に唱えたのは白骨化した魔法の呪文。「私がいつか終わらせてあげるからね」泣き声は夜をふやかした。あなたの劣性がいとしい。けれど忘れないで、本当は私があなたにころされたかったってこと。
162 / 2018.10.24
遠くの惑星ですらここにいるよとひかるのに、私たち
151-160|#140字小説
151 / 2018.10.13
合わせた手のひらは骨みたいだった。力無いそれは、しまいにぼくの太腿に落ちる。「おれたちはどっちつかずだな」あなたの勝手な言葉はぼくを、そしてあなたをも濡らす。ふたりで泣くものだから、滴の音の区別がつかなくなる。このまますべて絞られて、愛、なんて、あやしいものだけで繋がりたかった。
152 / 2018.10.15
ふるえる銀色の鋭角。きみは汚らしく顔を濡らして、
141-150|#140字小説
141 / 2018.10.03
元恋人に置き去りにされたCDのやり場を考えあぐねた。「この曲、あなたみたい」彼は私にそう言って、けれど、決して私に聴かせようとはしなかった。どんな曲だろうか。うかれた指先で、再生ボタンに触れる。うんと幸せな曲がいい。それなのに。流れてきたものは、どうしたって悲しいラブソングだった。
142 / 2018.10.04
幸せにすると言ったくせに。檸檬の紅茶をおとこの
131-140|#140字小説
131 / 2018.09.04
びょおびょおと、風音が部屋のまわりを囲んでいる。聴き覚えのある音声だわ、と思ったら、それは妹の泣き声だった。いっぺん泣きだすと、手をつけられなかった妹の。なつかしい音を思い出して、元気ですか?真白な紙に書いてみる。0.07mmのりりしい筆跡は存外うつくしく、誇らしいこころで光に透かす。
132 / 2018.09.08
わたしは名前にまどわされる。きれいな名前も
121-130|#140字小説
121 / 2018.08.18
夜の雨は隔たりを無くしてくれる。遠いあのひととの距離も。思い出せない掠れ声もかき消して。けれど、おだやかな朝の寝顔だけは侵食されずに、眼裏に居座り続けるのだから、やさしすぎる暗闇に濡れて、大声で泣き叫びたくなる。その衝動をこらえて、窓辺を濡らす滴に触れて、そっとくちづけを落とした。
122 / 2018.08.18
さらさらと雨の音がしていた。窓際のすき間から差
111-120|#140字小説
111 / 2018.08.07
からん、と涼しい音がする。聞き慣れた声がじぶんを呼んで、けれどずっと庭先を眺めた。世話好きが育てた黄色がゆれる。呆れたように繰り返される「あなた」に、ようやっと腰をあげて。冷えた檸檬水をひと口。あまい酸味にさされた舌では、上手に愛もつむげやしない。/
白紙の夏を君と 檸檬水/side-B
112 / 2018.08.09
ドライヤーでうなじを乾かされる。あんま
101-110|#140字小説
101 / 2018.07.29
お寝坊なひとを揺さぶる。うやうや、と文字にならないことを言う頬をつねって、あなたは涎のにおいがした。「おまえは優しくないね」これから優しくなるかもよ、と笑う。だんだんと色褪せていくこともある。あなたが隣にいた通学路の道端を、もう思い出せやしないけれど。あなたの寝癖はいまも可愛い。/ 透明な君は夏の恋人1周年「通学路」
102 / 2018.07.30
死期が近
91-100|#140字小説
91 / 2018.07.22
耳の一番深い場所に雨音が響く。その滴の行方を知らない、だけど、あなたの行き先も知らないのだから仕方ない気もした。展望台から見える遠くの海。水平線を目指して指輪を投げ捨てる。要らないものは持たなくていい。あなたが教えてくれたこと。雨が海に還るみたいに、あなたも早く生まれ変わりなよ。/ 透明な君は夏の恋人1周年「展望台」
92 / 2018.07.22
窓枠に青い
81-90|#140字小説
81 / 2018.07.13
太陽の下では会わないよと、そう言えばあなたは「吸血鬼?」と笑ったけれど、全部本当だったよ。跳ねすぎたあなたのいつもと違う寝癖を笑って「昨日何かあった?」と訊いてやる。押し黙るひと。それでいい。明るいすぎる光は大切なものも見えなくなるから、嘘みたいな日陰でずっと眠り続けていようよ。 / 透明な君は夏の恋人1周年「太陽」
82 / 2018.07.13
あんまり上手に
71-80|#140字小説
71 / 2018.07.01
夜風のために開けたままだった窓から、一匹の蝉が侵入した。息ばかりの悲鳴をあげて、浴室に逃げ込む。焦る指先で液晶画面に触れた。こんなことで、離れた距離を煩うなんて。「こんな時間に何」「ねえ、そろそろ一緒に暮らしてくれない?」独りじゃ無理だよ。電波の向こう岸で、あなたが笑う音がした。/ 透明な君は夏の恋人1周年「蝉」
72 / 2018.07.02
一度も水泳の授
61-70|#140字小説
61 / 2018.05.28
薄くなった心臓の膜が今にもはち切れてしまうらしい。誰かのために2倍も生きるような人だから、仕方がない気もした。酸素マスクが曇る。よわよわしい呼吸がいとしくて、永遠であって欲しくなった。でも、そんなことは無理だから。もう少しだけ息をして、どうか心地よくくたばってくれと願うのだった。
62 / 2018.06.07
壊れているようだった。元恋人が残した、使い物にな