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#リプでもらった台詞でお話を書く

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「君は冷たいね」

 しとしと、と、静寂を躊躇うみたいな雨がずっと降っていた。春の夜。身を上手にほぐせなかった、ぐちゃぐちゃに残された魚の骨のような気分だった。食卓には、まだ片付けていない夕食の皿が、その上にはぼろぼろの魚が、待っている。痛い、のだろうか。じぶんの身を崩されていると思ってしまうほどに。自分の呼吸。曇る空気。濁った天井。いつもどおりの空間。不明瞭な空間で耳に入る音から、ただ、雨が降っているな、と、思った

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「ねえ、どこに行くの?」

 うすくて、つめたい。灰色の空気。吸い込むと、少し排気ガスのような苦い味がして、飲み込むのを躊躇ってしまった。迷って、赤色の手袋に包んだ手のひらをくぼませて、その空間に、そっと吐き出す。隣のきみが、ふふ、と、わらった気配がして見やると、やっぱり片目を細めてわらっていた。ぎう、と耳朶をつねってやると、「痛いよ」と、目元の皺を深めた。嘘。耳朶には神経が通っていないから、どれだけつねっても痛くない、と、

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