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甘い果実ep.4
もう一つの現実…私の日常。
早崎くんは毎日保健室へ来るようになり、たわいもない話や、ちょっとイタズラっぽい言い方をしたり、そんな彼がやっぱり眩しくて仕方なかった。
「あのさ」
「ん?」
「今度の学祭で歌をうたうから聞きに来て…」
「うん…いいよ」
「絶対な…約束」
小指を立てて向けて来たので小指を絡ませ約束を交わした…。
「指切りげんまん。嘘ついたら針千本飲~ます!」
学祭当日、彼のステージを見るために雑用を早めに終わらせ体育館へ向かった。
すでに沢山の人でいっぱいで早崎くんの人気ぶりがわかる。彼がステージに立つと…大きな歓声と黄色い声が混じり合い…体育館の窓ガラスがビリビリビリと揺れた。
〈あ…〉
目が合った…。
「桜井先生も早崎のファンですか?」
私の隣に、いつのまにか体育教員の片岡先生が立っていた。
「早崎はカッコイイですもんね〜笑」
「そうですね〜笑」
「桜井先生?」
「はい?」
「今度…食…」
片岡先生が 何かを言いかけた時、
「せんせー」
背後から微かに声が聞こえた。振り返るとくの字に身体を曲げてる女子生徒が…。
「どうしたの?」
「気分が…」
「保健室へ行こうか?」
彼の歌が始まると同時。
〈この世に絶対なんて存在しないな…〉
「大丈夫ですか?手伝いますよ?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
片岡先生が声をかけてくれたが、男性に対して難しい年頃の女子生徒が相手だったので丁重に断り、女子生徒を連れて保健室へ戻った…。
「大丈夫?ここに横になって…」
女子生徒がベッドで休んでる間、体育館から微かに聞こえる彼の声を聴いていた。1時間程ベッドで休んで気分が回復した女子生徒は保健室を出て行った…。
〈観てあげれなかった…〉
大盛況の学祭が終わった。早崎くんは3年生。また来年…は無い。
ガラガラ~
「何で最後まで居なかったの?」
彼は保健室に入るなり私に詰め寄った。
「気分が悪くなった女の子が居たから、保健室へ戻ったのよ」
私はさっきまで女子生徒が休んでいたベッドを整えながら答えた。
「その後は?」
「その子を一人にするわけにはいかないから、ずっと保健室に居たの。でも、歌声は聴こえてたから聴いてたよ」
早崎くんは、ベッドを綺麗にしている私の向きをくるりと回転させベッドへ押し倒した。
「約束したじゃん」
「うん…ごめんね」
ジッと見つめてくる瞳が真っ直ぐ過ぎて胸が苦しくなった。
「約束破ったから…針千本…」
約束を破りたくて破ったわけじゃないのに、それを破ったと言う彼を幼く感じた。やっぱり18なんだと…。彼は唇を重ねてきた…。
ちゅ…
唇が離れる時に小さくリップ音が鳴った。
「抵抗しないなら続きしちゃうよ?」
「約束破った罰は受けたよ」
「そういうことか…」
彼は私から離れた。私も起き上がり身なりを整えた。本当はドキドキしてるのに、それを隠すのに必死だった…。
つづく
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