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【小説】ポンタ探偵事務所

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東京の下町で小さな探偵事務所を営んでいるポンタは、飛鳥山公園で起きた殺人事件に巻き込まれる。筆者初のミステリー小説。
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小説 ポンタ探偵事務所 あとがき

小説 ポンタ探偵事務所 あとがき

ポンタ探偵事務所、読んで頂きありがとうございました!

この作品でnoteの連載小説10作目となりました!まさか二桁達成出来るとは、これも全て読んで頂いた皆様のおかげです。本当に感謝感謝です!

初のミステリー作品となりましたが、難しかったです、試行錯誤しながら何とか書き終えました。サスペンスドラマ風のコメディタッチのミステリーを目指しましたが、いかがだったでしょうか?

お話の舞台は東京北区王子

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小説 ポンタ探偵事務所(全文)

小説 ポンタ探偵事務所(全文)

都内に唯一残された幹線道路上の軌道を、車と並走しながら走る都電の窓から、ポンタは曇天の空を見上げた。都電は車と競り合う様に、飛鳥山公園に沿う坂道をぐるりと周りながら下って行く。

桜で賑わった公園には、そろそろ紫陽花が咲き出す頃だ。雨に映える紫陽花は、ポンタの嫌いな季節の到来を示す。

都電は道路を横切る様に、駅に滑り込んだ。空には黒褐色の低い雲が垂れ込め始めている。湿気を帯びた不快な空気が、駅に

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連載小説 ポンタ探偵事務所(最終回)

連載小説 ポンタ探偵事務所(最終回)

「ちょっと切ない事件だったわね...」

房美ママがしんみりと言った。ポンタと百合絵は今夜もスナック桂にいた。

「カラン!カラン!!」

「よう!インチキ探偵さん、またアンタに美味しい所持ってかれちまったな!」

勢いよくドアが開き、上屋警部と新米刑事が入って来た。

「すみません、落としの名手さがりやさんの出番奪っちゃって」

「あがりやだよ!全くあんたはいつも余計な事してくれやがる。これで俺

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連載小説 ポンタ探偵事務所(56)

連載小説 ポンタ探偵事務所(56)

「ならば親父さんは何で俺にあんな酷い事を言ったんだ!」

最後の便箋を読み終えた金田が叫んだ。

「わからないの!お父さんはわざと言ったんだよ!おいちゃんにもっと自信を持って欲しくて、それに気付いて欲しかった、でもおいちゃんはいつもみたいに卑屈になって...」

三女が言い返すと、ハッと気付いた様に金田は膝からガクリと崩れ落ちた。

「親父さん、俺は、おれは、なんて事を...」

「バカバカバカ!

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連載小説 ポンタ探偵事務所(55)

連載小説 ポンタ探偵事務所(55)

かね坊、三女と一緒になってやってくれないか、そして二人で矢吹クリーニングを継いでくれたら、こんなに嬉しい事は無い。

三女はお前の事を好いている、だが、何度告白しても相手にしてもらえない、とずっと三女は嘆いていた。あの子はお前に一途で、それ故未だに独身だ。

身分が違う、釣り合わない、と言うのがお前が断る理由だそうだが、そんな事は全く無い。

自分の不幸な生立ちからつい臆病になってしまうのもあるだ

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連載小説 ポンタ探偵事務所(54)

連載小説 ポンタ探偵事務所(54)

◇矢吹さんの遺言書 四枚目

かね坊へ

かね坊、お前に出会えて本当に良かった、お前のおかげで本当に幸せな人生だった。

かね坊に初めて出会ったのは、お前がまだ十五歳の時だったね。少し伸びた坊主頭のまだあどけなさの残る姿は、まるで少年時代の自分と瓜二つだった。

息子のいない私に神様が息子を授けてくれたと思った。お前の不運な生立ちを知り尚のこと可愛いくなり、できる限り力になってあげたたいと思った。

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連載小説 ポンタ探偵事務所(53)

連載小説 ポンタ探偵事務所(53)

「そんな馬鹿な!親父さんは矢吹クリーニングをお嬢さんに継がせると言ったんだ!捨て犬で丁稚の俺なんかに継がせる訳ない!とこの場ではっきりと言われたんだ」

「おいちゃんのバカ!お父さんはずっと私とおいちゃんに継いで欲しいと思っていたんだよ!私は、小さい頃からおいちゃんに憧れていた、毎日汗だくになりながらアイロン台に向かっているおいちゃんはとてもカッコ良かった!小学校の卒業文集に、私はクリーニング屋さ

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連載小説 ポンタ探偵事務所(52)

連載小説 ポンタ探偵事務所(52)

「おいちゃん!それは違う」

背後から三女の声がした。ポンタが振り向くと三女と百合絵が立っていた。ポンタは百合絵に三女を此処に連れて来る様に言っておいたのだった。

「これを読んで!」

三女は蹲っている金田に近づき、白い封筒を差し出した。金田は涙で腫れた目で三女を見上げた。

「それはお父さんの遺言書よ、もし自分にもしもの事があったら開けなさい、と言って私に貸金庫の鍵をくれたの、その中に入ってた

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連載小説 ポンタ探偵事務所(51)

連載小説 ポンタ探偵事務所(51)

何処をどう走って帰ったのか全く記憶にありません。

「親父さんのバカ野郎!やっぱり俺なんて産まれて来なければ良かったんだ、こんな人生もう嫌だ!畜生!」

私は泣き叫びながら走っていた様に思います。

凶器のタオルは公園の何処かに投げ捨てました。気が付けば私は一人で真っ暗な店に居て、アイロン台の前に立っていました。

私は何十年もの間、来る日も来る日もアイロンを掛けて続けて来た。年季の入ったアイロン

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連載小説 ポンタ探偵事務所(50)

連載小説 ポンタ探偵事務所(50)

私はあの日、ここで親父さんが男に石で頭を殴られる所を目撃しました。いつもとは違う時間に散歩に出た親父さんを見て、私は胸騒ぎがして後を付けて来たんです。

僕は殴られて倒れた親父さんに駆け寄りました。親父さんは頭から血を流しながらも意識はハッキリしていました。直ぐに救急車を呼ぼうとしたのですが、大丈夫だから呼ぶな、と親父さんは止めました。

「これはおそらく長女の差金だろう、救急車を呼ぶと事件になる

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連載小説 ポンタ探偵事務所(49)

連載小説 ポンタ探偵事務所(49)

「捜査の手がいよいよ私に及んでいる事は何となく勘づいてました。物証もある以上、もう言い逃れ出来ないのはわかっています」

「金田さん、あんなに慕っていた矢吹さんを何故...」

金田は覚悟を決めた様子で事件の真相を語り始めた。

◇金田の告白

幼い頃に両親を亡くした私は、親戚の家を転々とさせられ、中学を出ると同時に家を出ました。

矢吹クリーニングでアルバイトを始めた身寄りの無い私の為に、親父さ

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連載小説 ポンタ探偵事務所(48)

連載小説 ポンタ探偵事務所(48)



ポンタは金田をアスカルゴ山頂駅の見晴台に呼び出した。逮捕状が執行される前にどうしても金田に聞いておきたい事があった。

かね坊、親父さんと呼び合い、まるで本当の親子の様に見えた二人の間に一体何があったのだろう。殺すほどの理由とは何だったのか。

「ポンタさん」

振り向くと金田が立っていた。

「金田さん、繁忙期でお忙しいのに、お呼びたてしてすみません」

ポンタは金田に頭を下げた。

「こ

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連載小説 ポンタ探偵事務所(47)

連載小説 ポンタ探偵事務所(47)

スナック桂で上屋警部と何度か顔を合わせた事のある金田は、一つ隣の席に着いた上屋に軽く会釈すると、そそくさと席を立ち上がり言った。

「ママ、お会計お願いします」

「あら、もうお帰り」

「ええ、今繁忙期で忙しいんですよ、また来ます」

金田はお金を置くとすぐに店を出て行った。

「もう、さがりやさん、タイミング悪すぎ、金田さん帰っちゃったじゃないですかあ。せっかくこれからタオルの事を聞こうとして

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連載小説 ポンタ探偵事務所(46)

連載小説 ポンタ探偵事務所(46)

「あらお二人さん、いらっしゃいませ」

上屋警部と新米刑事が入って来た。

「ママ、いつもの、おやおやインチキ探偵さん、今夜も来てるんか、まあ他に行く所無いもんな」

「あら、上屋さん、失礼ね、うちの店じゃご不満?」

「ごめんごめん、そんなつもりで言ったんじゃ無いよ、エヘヘ」

ママに突っ込まれタジタジの上屋警部は頭を掻いた。

金田に本題を切り出すタイミングを二人が入店して来た事で逃してしまっ

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