連載小説 ポンタ探偵事務所(54)
◇矢吹さんの遺言書 四枚目
かね坊へ
かね坊、お前に出会えて本当に良かった、お前のおかげで本当に幸せな人生だった。
かね坊に初めて出会ったのは、お前がまだ十五歳の時だったね。少し伸びた坊主頭のまだあどけなさの残る姿は、まるで少年時代の自分と瓜二つだった。
息子のいない私に神様が息子を授けてくれたと思った。お前の不運な生立ちを知り尚のこと可愛いくなり、できる限り力になってあげたたいと思った。
定時制高校を主席で卒業し、先生は大学進学を勧めたがお前は矢吹クリーニングの社員になると言って聞かなかった。推薦を貰っていた大学が何校もあったにも関わらず。
社員になってくれるのは嬉しいが、大学を出てからでも遅くないだろう、と進学を勧めても君の意思はとても固かった。早く一人前のクリーニング師になって親父さんに恩返ししたい、と言う言葉を聞いて私は涙が出たよ。
かね坊、お前が居なければ矢吹クリーニングはこれ程大きな会社になる事は無かっただろう。お前が身に付けたアイロンと染み抜きの技術がここまで会社を成長させたんだ。
だからかね坊、矢吹クリーニングはお前に継いでもらいたい。ただ私の遺言として一つだけお願いを聞いてくれないか。
つづく
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