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連載小説 ポンタ探偵事務所(50)


私はあの日、ここで親父さんが男に石で頭を殴られる所を目撃しました。いつもとは違う時間に散歩に出た親父さんを見て、私は胸騒ぎがして後を付けて来たんです。

僕は殴られて倒れた親父さんに駆け寄りました。親父さんは頭から血を流しながらも意識はハッキリしていました。直ぐに救急車を呼ぼうとしたのですが、大丈夫だから呼ぶな、と親父さんは止めました。

「これはおそらく長女の差金だろう、救急車を呼ぶと事件になる、娘を犯罪者にしたくない」と親父さんは言いました。長女はあの通りのジャジャ馬娘です、それでも親父さんにとっては可愛い我が娘なのでしょう。

頭を押さえながら親父さんは私の肩を借りて立ち上がりました。そして都電の走る姿を見下ろしながらこう言ったんです。

「かね坊、矢吹クリーニングをよろしく頼む。三女の事を助けてやってくれ」

私はその言葉に耳を疑いました。矢吹クリーニングの後を継ぐのは私では無いのか、私はそれを思い続けながら仕事をして来たのです。

私が跡継ぎでは無いのか、と私は親父さんを問い詰めました。すると親父さんはこう言い放ったたのです。

「何だと!丁稚の分際で思い上がるな!跡継ぎだと!拾て犬のお前をどんだけ可愛がってやったと思ってるんだ、会社は娘の三女に継がせる。当たり前だ」

「丁稚」「捨て犬」親父さんは私の事をそんな風に思っていたのか、私はこの人の為に人生の全てを捧げて来たのか、その言葉、余りにも酷い、酷すぎる、許せない、絶対に許せない!

私は掛けていたタオルを両手で持ち、背後から親父さんの首に巻き付け、思い切り締め上げました。

「かね坊、おまえはおれの...」

親父さんは振り返り、私に手を伸ばしました。ほんの数秒で親父さんの身体の力が抜け膝からガクリと倒れ落ちました。

私はそれでも全身の力を込めて首を締め続けました。そして親父さんの体を崖から蹴り落とし、その場から駆け出しました。

つづく

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