見出し画像

連載小説 ポンタ探偵事務所(49)


「捜査の手がいよいよ私に及んでいる事は何となく勘づいてました。物証もある以上、もう言い逃れ出来ないのはわかっています」

「金田さん、あんなに慕っていた矢吹さんを何故...」

金田は覚悟を決めた様子で事件の真相を語り始めた。

◇金田の告白

幼い頃に両親を亡くした私は、親戚の家を転々とさせられ、中学を出ると同時に家を出ました。

矢吹クリーニングでアルバイトを始めた身寄りの無い私の為に、親父さんは自分の書斎だった部屋を開け、そこに私を住まわせてくれました。家族と同じ食卓で三食食べさせくれ、衣食住全て面倒見てくれました。当時食べ盛りだった私に遠慮するなといつも自分のおかずを分け与えてくれました。

夜間高校にも通わせてもらった私は、高校卒業と同時に矢吹クリーニングの正社員となり、それから四十年間一筋で働いて来ました。

赤の他人の私を、親父さんは実の息子の様に可愛がってくれました。もう言葉では言い表せない程感謝しています。

親父さんは良く仕事終わりに「かね坊、散歩行くぞ」とこの場所に私を連れて来てくれたんです。

ここから都電を見ながら私にいつも言いました「かね坊、お前は俺の息子だ、矢吹クリーニングはお前に任せる、よろしく頼む」って。

その時私は思ったんです。こんな自分でも生きてる意味がある。誰かの役に立つ事が出来る。生きてて良かった、と。

何も良い事が無かった人生、こんな人生もう終わりにしたいと思い続けていた私に、親父さんは生きる希望を与えてくれました。こんな私でも存在価値がある事を親父さんは教えてくれたんです。

親父さんの為、矢吹クリーニングの為、私は身を粉にして働きました。クリーニング師の資格を取り、誰にも負けない程アイロン掛けや染み抜きの研究もしました。親父さんの為に自分の人生を捧げようと決心したんです。

つづく

(48)←  →(50)

(1)から読む←









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?