エッセイ | お酒をのみたい
「いいかげんそういう飲み方をするのやめた方がいいよ」そういいながら友だちはビールを飲む。
「こういう飲み方をする時は人を選んでいるから大丈夫」私もグラスを口元へ移動させながらいい返す。
狭い店内の中で、小さな机に向き合いながら座っている。久しぶりに会った友だちからはいつものように注意をされていた。
「いつか事故だったり事件だったりに巻き込まれる前に正しておいた方がいい」
「いつも家までは帰れているし、ものをなくしたこともない。問題ないよ」私がそういうと友だちはわざとらしくため息をついて、またビールを飲む。
私は体質的にお酒が苦手だった。学生の頃は1時間かけて1杯を飲むようにしていたため、ひどい酔い方をしたことはなかったが、飲んでいる間に酔いが回ってくるとつらくて仕方なかった。
社会人になり飲み会の回数も増えるとお酒にも慣れ始め、飲む量がどんどん増えていった。周りからは「学生のような飲み方だ」といわれたが、あながち間違ってはいない。
このような飲み方は学生の頃に済ませておくべき経験なのだろう。
社会人になってから気付いたのは、お酒をどんどん飲んでいればつらくなることがないということだった。頭痛やクラクラして気持ち悪くなることがない。
だから私は飲む量を増やしていった。周りの人たちはお酒に強い人が多く、そのペースに合わせて飲み進めるのが不思議と楽しいのだ。
「1、2杯しかお酒を飲まない飲み会が世の中で1番嫌い」とお酒好きな先輩がいっていた。
「酔いきらないとお酒は薬にならないんだよ」2杯程度じゃ意識もしっかりしていてつらいだけでしょ、と注射を拒む子どものように叫んでいた。
ふざけた人もいるものだと当時は思っていたが、今ではその言葉の意味がよく分かる。酔いきらなければつらいのだ。楽しくならないんだ。
「この時のために今まで命がけで生きてきたんだ。この先のことも、いつも通り自分でなんとかする。——」
だいぶ酔ってきたんじゃないの? と友だちから呼びかけられ気付く。昔に先輩から言われた言葉を思い出していた。楽しい食事もそろそろ終わりの時間だ。
「聞いたことない? 『酒を飲んでいいのは酒にのまれる覚悟がある者だけだ』って」笑いながら友だちにたずねる。
「聞いたことないね」といいつつも、どこかで聞いたことがあるなとつぶやく。
覚悟はできているか? 私はできている。
のまれているよ、と明かりの向こうから友だちの声が聞こえる。
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