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エッセイ | 誰かいた

もうすぐ夏が終わりそうだなんて考えていると、「夏といえば?」といったゲームが頭の中で始まる。

夏といえばお祭り。夏といえばスイカ。夏といえば怪談。

お祭りとスイカの話は以前に別のエッセイで書いたため、夏の終わりに怪談エッセイを書こうと思う。
怪談といっても完成度の高い話ではない。私が子どもの頃に体験したちょっとした話だ。


中学生の頃、私は吹奏楽部に所属していた。通っていた学校には体育館とは別にホールがあった。休日には行政の施設としても利用されていたのだが、平日や日中は学校側で使用していた。そのため、吹奏楽部はぜいたくにもホールで毎日練習をしていたのだ。

ホールは座席も階段状になっており、後ろ側になるとなかなかの高さになる。座席の下も有効に活用されており、ホールの裏側へ回るといくつか倉庫がある。

この倉庫には吹奏楽部が所持している楽器や、個人が使用する楽器を保管して施錠していた。
楽譜を保管している倉庫もあるのだが、こちらを開けることは少なかった。「全日本アンサンブルコンテスト」の時期が近づいた時にだけ開放され、編成ごとの楽曲を探す程度だ。


私は2年生になりホールと倉庫の鍵を管理するようになった。私が管理をするわけではなく、2年生で管理をするのだ。部活が始まる前に職員室へいき鍵を借りてくる。部活が終われば施錠して職員室へ鍵を返しにいく。たったそれだけだ。

いつ頃だったかは覚えていないが、確か夏前くらいだったと思う。パーカッションのパートリーダーから苦情が入ったのだ。
「楽器庫の扉を雑に扱わないように。ガチャガチャとうるさくてパート練習の邪魔になります」

パーカッションは全体練習でない限り楽器庫の前で練習をしている。楽器の移動が大変なためそうしていたのだ。

部活中は楽器庫の扉を開け放しているのだが、ストッパー機能がないため閉まってしまうこともあった。きっと閉まった扉を開ける音のうるさい部員がいたのだろうなと思っていた。


練習が終わり楽器を片付ける。その日は私が所属しているパートで鍵の管理をしていたため、他の部員がホールから出たのを確認してからホールの施錠をする。

その後、自分の楽器を持って楽器庫へと向かう。よく一緒にいた友だちと5、6人で向かっていたためにぎやかだった。

廊下の電気はすでに消えているが、うっすらと楽器庫が見えてくると扉は閉じていることに気付いた。閉じた扉から光が漏れているのがわかるため、「誰かがいるのかな?」と友だちの1人が言った。

「ガチャガチャッ」突然ドアノブの動く音が響く。「怖いよ」とか「ふざけないでよ」などと口々に騒ぎながら楽器庫へ近づくが、先頭を歩いていた友だちが急に立ち止まる。

「違う……」立ち止まった友だちは少しあとずさりをしながら、片手で持っていた楽器を両手で持ち直す。
「……楽譜の倉庫だよ」そう言う友だちはもう泣き出しそうだった。


シンと静かになった。人の声もしなければ動く音も聞こえない。
「誰かが譜面庫に入ってるんじゃない? 驚かしてるんだよ」そう言ってみるが、譜面庫に電気はついていない。
譜面庫に近づき扉を開けようとしてみるが、鍵がかかっており開かない。鍵を使い開けてみるが、中には誰もいない。

「本当に譜面庫から音がしたの?」友だちに尋ねながら扉を閉めて鍵をかける。他の友だちも「勘違いじゃない?」なんて言いながら、私たちは楽器を楽器庫へしまい、こちらも同様に鍵をかけた。もちろん楽器庫にも人はいなかった。

職員室へ向かう際に譜面庫の前を通ると、「ガチャガチャッ」とまた音がする。びっくりして扉を見るとドアノブが動いていた。

一緒にいた友だちみんなが叫び声をあげて、一斉に走り出した。


扉を製作している会社の人に「ドアノブが勝手にガチャガチャ動くことってありますか?」と尋ねたことがある。
「不具合で『ガチャ』と1回だけ動くことはあるかもしれないです。ですが、『ガチャガチャ』と動くことはないでしょうね」と返ってくる。クレームありましたか? なんてその人は気にしておびえた表情をしていたが、私の方が怖い思いだった。



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