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エッセイ | 次の楽しみ

「27時間テレビが夏休みを連れてきて、24時間テレビが連れ去っていく」母が毎年言っている言葉だ。

1週間くらい前から日本テレビでは24時間テレビの宣伝が始まっていた。出演予定のタレントたちが笑顔で番組の内容についてを話していた。

「もう夏休みが終わるんだな」大人になった今では夏休みなんて言葉でしか触れることはできない。日中に日中に子どもの声が聞こえることは少なくなりそうだなと思った。


テレビの電源を入れると案の定24時間テレビが目に飛び込んできた。「いよいよ夏休みは終わるんだな」私は子どもたちが阿鼻叫喚と化すのを想像する。

私は夏休みの最後に何もなく終わることがとても寂しかった。楽しいことは中盤で全て消化され、あとは始業を1日1日と待つだけの毎日だ。死刑囚であれば最後の晩餐という楽しみがあるのだが、それが楽しみなのかは分からないけれど、夏休みの終了を迎える子どもたちには何もない。

「何か楽しいことない?」幼い私はいつものように尋ねていた。「楽しいことは自分で見つけなさい。楽しいことなんて人それぞれなんだから」何回も聞く質問に面倒くさそうに母は返す。


音が外から聞こえたような気がした。人の声や太鼓の音だ。お祭りでもやっているのだろうか。

疑問に思いつつも普段通りに過ごしていると、次第にその音は大きくなり確信へと変わる。

おみこしを担いだ集団が練り歩いている。それも1台ではなく何台もだ。私が住んでいる地域で夏祭りをやっているようなのだが、5年近く暮らしていて初めて知った。

街路樹の上からおみこしが上がったり下がったりするのが見える。肝心の担いでいる人たちは見えないが、夏休み最後のイベントで子どもたちが頑張って担いでいるのを想像する。


おみこしが通り過ぎてから2時間ほどたった。外も涼しくなってきたため買い物に出かけようと思い家を出る。

スーパーに向かう途中に近所の商店街を通過するのだが、いつもの週末以上に人がいた。どうやらこの商店街が主体となり夏祭りをやっているらしい。浴衣を着た子どもたちや、はっぴを羽織った大人たちがいる。

にぎやかな商店街を歩いていると、開けたスペースに見覚えのあるものが鎮座していた。数時間前に見たおみこしだ。担がれてここまで来ていたのか。

おみこしに目を取られていると、道路にたまった人が一斉に左右へ分かれた。前方からはまた別のおみこしが大人の男たちに担がれてやってくる。

私はおみこしを担いでいるのは子どもたちかと思っていたが、どうやら予想していた以上に気合の入ったお祭りであるようだ。

先頭の男性が音頭をかけながら、時折周囲の人へ道を開けてもらうようあいさつをしている。おみこしを担ぐ男たちは皆笑顔で掛け声を叫ぶ。

周囲の人たちはスマートフォンを手に写真なのか動画を撮っている。脇道からは子どもたちが走ってきておみこしを仰ぐ。

夏休み最後に大きなイベントがあるのはうれしいだろうな。終わりが近づいていることを実感しつつも、まだ楽しみが残っていることは心の支えになる。

今日が終われば夏休みはもう終わりだが、今を楽しんだら次の楽しみを見つけなければ。



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