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#ショートショート
【ショートショート】ハザード
豪華客船が漂流し数十日、十分にあった食料も尽き、体力のないものから死者がで始めた。
食料は無く救助がいつくるかも分からない海の上、それは暗黙の了解である。
料理人が《ウミガメのスープ》だと言って、細かい肉の入ったスープを振る舞った。肉が細かく切り刻まれているのは、せめてもの配慮だろうか。出汁をが出やすくなるための工夫だろうか。やたらと塩味が強かったが、飢餓状態の人間にとっては堪らなく美味で、毎回貪
【ショートショート】祖母・ボソボソ
もともと商売人ではきはきとして元気だった私の祖母は祖父が亡くなって以来、歩く姿もふらふらと危うく、目に見えて気力を落としボソボソとしか喋らなくなった。
祖父は酔うと決まって話すことがある。祖母との馴れ初めだ。
「婆さんが結婚しなきゃ死ぬって言うからなぁ。橋から飛び降りてやるぅ、って言うもんだから仕方ななく…たなぁ」そう言って強くもない酒を煽る。祖母はその話が始まると照れくさそうにモジモジする。
【ショートショート】攻略法
「おいっ、ミワコ、ミワコ、起きろよ」
「んっ、いたたたた、何、えっ、いやぁ」
二人は下界が見えないほどの遥か上空で、透明な立方体に閉じ込められていた。
「どうゆうことなの、ねえヨシオ!どこなの、ここは!」
「落ち着け、深呼吸だ。俺も最初はパニクッたよ、でもな多分これはゲームだ。ARだかVRだか知らんが、映画とかアニメで見たことあるんだよ、ゴーグルかけたり首にプラグ突っ込んだりさ。
「何?そ
【ショートショート】ウルトラサイズの恋
涼平は文通相手に「会いたい」という内容の手紙を送ることは禁じ手だし、マナー違反だと思っていた。だが、彼女の美しい文字を目にする度に思いは再現なく膨らむ。
「私、涼平さんは素敵だと思います」と書かれていたりもした。涼平は大変興奮した。
もちろん「会いたい」と手紙に書くまで躊躇いはあった。文通相手である弥生の中で亮平は随分と聖人君子の好青年に仕上がっているに違いない。やれ老人の荷物を持って助けただ
【ショートショート】感謝
ある探検家がジャングルで熱病に罹り死にかけているところを、とある部族に助けられた。お互い様だが、全く言葉は通じない外国人である探検家を彼らは手厚く看病してくれた。そのおかげもあって探検家は回復し彼らと同じ物をたべ、やせ細っていた体は肉と活気を取り戻した。
言葉は分からないままだが、探検家は心から感謝を込めて「ありがとう、ありがとう」と日本語で礼を言った。すると彼らは喜び踊り、大きな火の前に連れ
【ショートショート】殺人的傑作
一週間近く連絡が取れなくなっていた同僚の家を訪ねると彼は死んでいた。死因はおそらく餓死だろうと思えるほど、見る影もなく痩せていた。やせ細り、殆ど皮と骨だけになった手には表紙カバーも無ければ作者名も記されていない真黒でボロボロの本が握られていた。
私は彼の指を一本ずつ解き、その本を手にり開く。それは小説だった。私は、それを流れるように読み終わる。また始めから読む。何度読んでも新しい発見と面白さ
【ショートショート】録家
数年ぶりに地元に帰省し、実家に立ち寄った。
玄関を開けると、廊下の奥の居間から笑い声が聞こえる。父、母そして妹。玄関に立ちつくしたままでいると、居間の襖が開き柔らかな灯りと共に母が現れた。こちらに向かって歩いてくる母の顔がみるみる真っ青になって「アンタ、さっき帰ってきたがな」と言って震えている。確かに居間から聞こえる笑い声には俺の物らしき声が交ざっている。
俺はため息交じりに「母さん達は、もう
【ショートショート】珈琲問答
俺の向かいに座っていた友人は、湯気が上がる珈琲に口をつけることなく席を立ち去った。
この喫茶店は妙だ。いくら注文しても商品は出てこない。友人と俺に珈琲が一杯ずつ出されただけだ。彼はそんな店に腹を立てて席を立ったのだろうか。
彼が残した珈琲がやたらうまそうに見えた。少し飲んでみようか。いや、彼は帰ってくるかもしれないし、他人の物を盗むのと同じではないか……。
しかし、空っぽになった自分
【ショートショート】階段社
目指すは地上20階の事務所、エレベータは無い。
階段を1段ずつ踏みしめる。真白のやたらと清潔な階段。この階には病院でもあるのだろうかと思えるほどに潔癖ささえ感じる。手すりを使うこと無く最初の折り返し地点を曲がると、今度は目が痛いほどの黄色い階段が現れた、階段の中程まできたところで違和感に気がついた。先程とは一段の高さが違うように思える。色による錯覚だろうか。
次は緑だった。しかも微妙な緑。昔
【ショートショート】水泡にキス
行方知れずの夫『満男』は数年後に滾々と水が湧き出る泉の水辺で見つかった。
帰ってきた満男は水しか飲ま無かった。
満男を連れて散歩に出かけた時には、少し目を離しただけで姿が見えなくなった。また、彼が何処かに行ってしまう。焦りながら探していると、近くの川で子どものように笑いながら、服が濡れることも気にせずバシャバシャと手足をバタつかせている。私は靴を履いたまま川から満男を引き摺りだした。
彼はど
【ショートショート】機械と砂漠と私と
ロボットと人間が砂漠を旅をしていた。名前はアマンダとSA-8。二人はロボットと人間が共生しているという街を目指していた。
高温のためだろうか、SA-8が道半ばで倒れた。これまで一緒に旅をしてきた相棒をアマンダは見捨てられなかった。彼女は相棒を担いで歩いた。街に着けばまだ間に合うかもしれない。僅かな体温を背中に感じながらアマンダは夜通し歩いた。
そしてついに街に辿り着き、アマンダが倒れ込むと。
【ショートショート】オレンジの光
「やだ!オレンジにして」
ナツメ球というらしい。白く発光するあの天使の輪みたいな蛍光灯を消すと点灯する淡いオレンジ色の光を放つアレ。少し大きな豆電球みたいなやつ。子どもの頃から妹は暗いと眠れないので、あのオレンジ色の明りを残さなければ泣いて駄々をこねた。大人になってからもその癖は治らなかった。わたしはあの光があると落ち着いて眠れない気がした。妹は「夕日だと思えばいいじゃん」と言っていたが、わたし
【ショートショート】過去進行形
灰色の雲から雨が降っているが、僅かに陽光の気配があるので明るい。もう少しで雨は止むだろう。
雨上がりはいつも僕を憂鬱にさせる。
僕は彼女に聞こえないように小さく溜息をつきながら「雨の日だけ死んだ人に会える場所があったら、死んだ僕に会いに来る?」商店街の屋根を打つ雨音に負けないように横を歩いている彼女に問いかける。
「雨やみそうだね」
問いかけには答えてくれない。肉屋で買ったコロッケ
【ショートショート】ファンタジー・ファンタジア
とある村の少年、アルフレドは小説好きだ。小説を読んでいると辛い毎日から抜け出して、旅をしている気分になる。
彼の村は都から遠く離れた辺境、村の主要な産業は狩猟によって得られる皮や骨を使った工芸品などだ。当然、書店という商売は成り立たない。たまに行商人が運んでくる荷物の中に紛れ込んだ盗品まがいの本を安くで譲ってもらえればマシな方だ。
アルフレドの両親も例に漏れず猟師だ。暇さえあれば読書をしてい