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#小説

今年読んだ文学ランキング2019

私たちが本を読むのは、知らないことを知るためではない。私たちは、私たちが知っていることを知っていると知るために、知らない本から知っているものを読み取るのだ。 (樋口恭介 ブンゲイファイトクラブ決勝ジャッジ評より) まず今年の下半期に読んだ文学作品で特によかったものを、国内はベスト5・海外はベスト10形式で順に紹介する。 【2019年下半期 日本文学ベスト5】 第5位 「林冴花は宗教が苦手」 金子玲介 今年の下半期にインターネットの文学界隈を賑わせたイベントといえば「

空とネコ

オレンジ色のカーブミラーの真下、田舎特有の煙った匂い、家々を線結ぶ郵便バイクの音が響く、昼間の住宅街。 地面に倒れ込んだ躰をイタタと起こすと、なんと、白い猫になっていました。 カーブミラーと同じ色の小花が低木に咲き乱れて芳しい、十月の午後三時のことでした。 先ほど、愛した男にとどめをさしました。 そうせずにはいられなかったのです。 お昼ご飯に温かいきつね饂飩を作ってあげました。 あなたはそういう人だから、お揚げを最初に食べ、ネギを残します。 私は、麺を食べ終えてから、味の染

あの朝のカルピス

なぜだ。 どうしてこうなってしまったのか。根底には「好き」があるけど、自分のものにしたい「好き」かというと、ちょっと違う。あたしたちずっと友達だよねと錯覚する、友情めいた「好き」とも違う。 そう、そうだ。 これは、わたしの「したい」とあっちの「したい」が合致した結果だ。酔ってなかったし、やけくそでもなかった。なによりゆうべは楽しかったし気持ちよかったじゃないか。セックスしたい「好き」もあるんだそうなんだ。 と、反省なのか何なのかよくわからない思いを反芻しながら、浴室に

わたしのあいした店長

わたしはすこし変わった家庭で生まれ育ちました。両親とは苗字が違います。そもそも結婚とは家同士が繋がるということですから、家の事情で子どもの境遇が変わることもあるでしょう。なので「生まれる前に既に決まっていた」そのルールに対してわたしは仕方がないことだと思っており、不平不満を抱いたことはないのです。けれど、両親とは戸籍上親子ではないので、その事実はすくなからずわたしの性格に影響していると感じています。 わたしは明るく活発的な子どもであったと思います。授業では積極的に手を挙げて

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死にたい、の最適解について

とあるウイルスのおかげでしばらく休校になっていて、学校に行かずに済んでいた。なのに、ゆるゆると学校が始まって、いつのまにか通常営業に戻っていた。典型的ないじめを受けている僕は、夏休みの終わりを目前にして、仕方なく、そして、必然的に「死」と向き合うことになった。 だからといって、首をつれそうなロープを用意する、とか、毒を入手するとかそんなことは当然できるはずもなくて、ネットで「楽な死に方」を探しながら、夜勤中の母の顔を頭に浮かべるだけだ。 ふと、なんとなく、おもむろに、広告

すべるこども

 雪まつりの賑わいも、どこか他人事ながらとりあえず今年も通り過ぎておくことにする。そんな地元民は多いのではないだろうか。  仕事帰り、地下街から階段を上り、テレビ塔の下へ出てきた。  華やかなイルミネーションを見下ろし、降りてみるとスケート場ができていた。  これは昔からあるものではない。いいところ数年しか歴史はないだろう。  覗き込んでみると、子供や観光客、カップルなどがぎこちなくスケートを楽しんでいた。たぶん生まれて初めて滑る人もいるだろう。  フェンスから楽し気なリンク

僕があの夏に見た涙はどんな色だったか、もう思い出せない

1. 僕は、とても嫌な子供だったと思う。幼少より何となく人より勉強ができ、スポーツも出来た僕にとって、それほどガリ勉をしなくても神奈川県下有数の進学公立高校に入学できたことは、僥倖でもあり、不幸でもあった。自分が如何に「井の中の蛙」であったかを思い知ったからだ。自分より遥かに勉強していなくても、練習をしなくても、出来てしまう人のなんて多いことか。しかも、そういう人であっても、弛まぬ努力を惜しまない人のなんて多いことか。自分がもしかしたら「天才」なんじゃないかと自惚れて努力を惜

春のおいしさ、ゆたかさ

私、そろそろやばいかも。化粧してないどころかコンタクトだって最後に入れたのいつだっけ。ツイッターで『久々に化粧しちゃった、スーパー行くだけだけど笑』みたいなこと言うほど若くないし、化粧好きでもない。オンライン飲みも最初は楽しかったけど、ジェラピケのパジャマチラ見せとか、同棲マウントとかがめんどくさくなってきて、もう昔の話になりつつある。実家から届いた大量のそら豆とタケノコ。ちいさな紙にびっしり詰まったお母さんの走り書きの文字が、ちゃんとしなさい、って言ってるように感じる。とり

【餅】 #2019年のベストnote /思わずサポートしてしまった記事編【石油王】

よく来たな。お望月さんだよ。 Noteさんが #2019年のベストnote を募集しているそうなので、実際にサポートをしてオススメにした記事からさらに厳選して紹介しようと思う。 Noteの荒野には懸賞金を出してチヤホヤしたいほどの賞金首、つまり隙あらば俺たちを撃ち殺そうとするインクスリンガーがウヨウヨしており、つまり【賞金首リスト】であるこの記事自体がほぼ有料に近い価値をもつ。命がいらないならまずリンク先の記事を読んで来い。 2019年のベストノート一覧購入履歴からコピペ

ある船乗りの物語

ー船出ーある秋の日。日曜日の午後、2時42分。 ひとりの船乗りが海に出た。 ちいさな船だった。海に流れ落ちる雨粒ほどにちっぽけな船だった。船乗りの身体もまた、ちいさく儚く、無力だった。薄く柔らかい皮膚に微かな吐息。動物の本能をコットンで包んだような危なっかしさを身にまとった生き物は、生命を維持するだけで精一杯のように思われた。 海に出たはいいが、船はこれっぽっちも進まない。船乗りはオールの握り方すら知らなかった。岸の近くで、先輩の船乗りたちに教えを請うた。 彼らは言っ

【いとしさが止まらない】本棚の作り方&手元にあるだけで幸せな気持ちになる12冊

「本棚」。世界で2番目くらいに好きな言葉だ。本棚。本棚本棚。本棚本棚本棚。ほんだな。HONDANA。何度言っても飽きない。本棚は私にとって特別な存在だ。一言であらわそうとすると、「人生」「世界」「自分自身」「パートナー」なんてワードが浮かぶ。 おおげさだなあと感じる人もいるかもしれないけれど、ほんとうなのだ。本棚は私自身であり、人生そのもの。そしていちばんの理解者。恋人。友だち。過去であり今であり未来。この世のすべて。え、結局なんなの?ナニモノなの??本棚さん。 定義しが

第1回逆噴射小説大賞:結果発表

お待たせいたしました。Coronaを奪い合い400文字でしのぎを削る「逆噴射小説大賞」、その最終結果を発表いたします! 上記の記事が、第一次&第二次選考の様子です。今回の最終選考にあたり、選考基準の前提はこのようになっています。 1:「スキ」の数は選考に影響を与えていない。 2:応募者が投稿した作品の数は選考に影響を与えていない。 3:一人の応募者につき複数作品が第二次選考に残っているものもあるが、今回の最終選考にあたっては、各応募者について、選考陣が最も良いと感じた1作

消えない泡 #あの夏に乾杯

北の夏は短い。 盆だというのに吹き込む夜風は涼しく、虫の声も秋を感じさせる。リビングの窓の網戸には、大きな黒い虫が張り付いて離れない。蛍光灯の光に引き寄せられてか、夕飯のカスがこびりついた皿の山に用があってか。 「おい」 テレビの前の父親に目を向ける。むっくりとした猫背のラインに、グレーのTシャツがぴったり張り付いている。野球観戦後そのままのチャンネルで垂れ流されるCMでは、最近人気の俳優が爽やかな笑顔をこぼし、ビールを飲み干している。 「一杯、どうだ」 夕飯の時か

私的辞典

辞書でランダムに出た単語を使い、毎日文章を書いています。 せっかくそんなことをしているので、今までの投稿を50音順にしてリンク付けてみました。好きな記事は太字にしています。 誰にも頼まれていませんが、随時追加します(笑) <あ行> アイドル【idol】 あとかた【跡形】 あな【穴】 あめ【雨】 あらう【洗う】 アレルギー【Allergie】 アンビバレント いす【椅子】 いちば【市場】 いろけ【色気】 いろじかけ【色仕掛け】 うらない【占い】 うろおぼえ【空覚え】 え【絵】