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#また乾杯しよう お気に入り

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お気に入りを発見次第入れます。いち参加者/読者の感想です。 キリン×note 公式コンテスト #また乾杯しよう 投稿期間:2020/8/5~9/9 🔻告知 https://not…
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『いろいろあった』

「昔いろいろあって」 「みんないろいろあるよ」 この言葉を聞くたびに思ってしまう。 玉石混交な人の経歴を"いろいろあった"で勝手に集約しないで欲しいと。 あるいは、そんな言葉でまとめられるような出来事しか経験してこなかったのかと。 今でも思い出すたびに苦しさのあまり身悶えして転げ回りたくなるような、"いろいろあった"なんて言葉ではとても表現できない、あの記憶。 少し昔の話をしよう。 ------ 北関東の農家に生まれた僕は、幼いころから身体が大変に弱かった。 ちょ

積み重ねた日々、不器用な乾杯

幼い頃から、人生は「本当」を探す旅だった。 ずいぶん大人になってからも、本当の目標とか本当の人生とか、そんなものを見つけたくて必死だったように思う。 そんな調子がつづき、迷子のピークを迎えた29歳のときに決めたのが海外へ行くことだった。 すべての段取りが整ってから家族に報告した。父は驚きと呆れが入り混ったような声色で言った。 「何?アメリカ行くやと? おまえもう30になろうもん なんば言い出しよっとか」 お父さん、話があります。 私がそう切り出したから、てっきり結婚宣

オンライン飲み会なんて、大嫌いだ

 「みんな元気なの? 陽子ちょっとなにそれ。水じゃないよね?えー!まじで水なの。 香織は?安定のビールね。 多田!ワイン!何それそんなイメージないんだけど。私はねノンアルビール。 いやあの…あのね…。この年になってアレなんだけど…妊娠…12月予定。来年…来年は会えるかねえ。生まれてたら、お盆の頃には8…9カ月? さすがに居酒屋には連れて行かないか。はは。 里中はー? 何飲んでるの。何も? あれ、何も飲んでないんだ。香織のビール、すっごい濃い色だね。なんのビール?」 変わらな

「乾杯」を作るわたしたち

「かんぱーい!」 あの大きな声も、ガラスのぶつかる音も、壁に染み込んだタバコの煙も、ゼロ距離の会話も、脂の固まった焼き鳥も、重たいジョッキも、怒鳴り声のような注文も。わたしはぜんぶが好きだ。むさ苦しくて騒がしいあの空間が、いまでは懐かしくて遠い。 *** 私が居酒屋で働き始めたのは、高校1年生の夏だ。遊ぶために少し入った派遣のバイトが肌に合わなくて、仕方なく短期のバイトで駅前のチェーン居酒屋で働き始めた。それは、今までの勉強とも部活とも違う、目まぐるしくせわしないものだ

マルティン=ルターと美味しいビール

マルティン=ルターは、机と椅子が用意されたうす暗い部屋のなかにいた。 広間につらなる廊下の一角に、とりあえず取りつけられた風の粗末な小部屋だ。 年代物の机はところどころささくれていたが、椅子はついさっき新調されたかのようで、塗料に用いられたワニスの匂いが鼻についた。 こまかな寄木細工がほどこされている。 それは部屋の雰囲気にそぐわず非現実的で、ルターの神経をひどく逆なでした。 広間からはざわめきが伝わってくる。 石の壁はある種の声をよく通すのだろうか。 誰かが何かに怒鳴って

20歳の夏、乾杯は1日の始まりだった

「はい、お疲れ様〜」 仕事上がりの夜、新橋のテラス席で会社の同期をビールジョッキを控えめに打ち鳴らした。新橋の飲み屋街は、緊急事態宣言時にニュースで見ていたよりは賑わっていたけれど、一年前と比べるとまだまだ静かだった。 「で、今日はどうしたの」 非常事態宣言が出た4月からずっと在宅勤務の私は、今日も家で作り置きのおかずを食べてさっさと寝るつもりだった。ただ、定時2時間前に一番仲の良い同期から飲みの誘いがきて、気付いたらOKのスタンプを送っていた。 「うん、ちょっと仕事

そして、梅酒で乾杯を

物語を作って、と彼女が言い出したのはいつだったろう。 パソコンを開きながら考える。記憶を辿ったが思い出せない。 諦めて冷蔵庫から梅酒と炭酸水を取り出したところで、ふっとあの日のことが鮮明に蘇ってきた。 そうだ、サークルの飲み会だった。公演の準備はじめの景気付けだ。 ・・・・・ なんの変哲もない演劇サークル。小さいながらきちんと公演を打てるだけの実力はあって、私はそこで演者と小道具作成をしていた。彼女は舞台には出ず、照明を担当したり公演全体のスケジュール管理をしたりし

君の夢を、聴かせてよ。

ぷしゅ。 待ちきれなかったみたいに、泡が缶から飛び出してきた。 君があわててビールを小さなグラスに注ぐ。 おしゃれなホテル特有の間接照明が、いつものビールをよりいっそう鮮やかなオレンジ色に照らしている。 私たちはおそろいのグラスを持って、窓際のソファーに向い合わせに座った。懐かしいふかふかのソファーに、私たちのからだは思ったよりも深く包み込まれた。 「乾杯」 「乾杯」 小さな声で言って、小さくグラスを鳴らす。一口飲んだ。麦のにおいが鼻からふわっと頭の上まで広がっ

ウソをついても会いたかった人

「じゃあ、こちらへは前泊ですか? でしたら、ぜひ一杯どうです?」 「あ、いえ…… そちらへは、朝イチで参りますので。また次の機会にお願いします」 仕事の相手先に、ウソをついてしまった。 本当はアポの前日、最終便の飛行機で夜着くことになっていた。 でも、私には、ウソをついても会いたい人がいた。 彼女のことを知ったのは、文章鍛錬にと始めたSNSだった。 彼女は、自分が抱えている苦悩を赤裸々に語っていた。書くことで、悩みと真剣にぶつかっていた。上手く書こうとか、読まれるように書こ

お決まりの乾杯は、お決まりの仲間と、お決まりのビールで。

 特別なビールがある。  それがクラフトビールや、せめてギネスだとしたらサマになるかもしれないが、違う。  極めて大衆的だけど、わたしには特別なビール。コンビニでもスーパーでも、いつでも手に入るけれど、1人では買わないビール。 ■■■ 「岩下さんって、大学はどこ?」 「へぇ、サークルは?」 「あぁ、テニサーか。」  「あぁ」と続く表情には「毎晩飲んで騒いで、チャラチャラ遊んでいる名前だけテニスなサークル出身か」といった含みを感じることがある。  相手に悪気があるわ

苦くて甘い「乾杯」を、一緒に。

あのお酒とあの思い出ハタチを迎えてから10年が経った。10年もあれば、大学や地元、会社や旅先でのいろんな「お酒」の思い出がそれなりに降り積もっている。 学生の懐にもやさしい値段の飲み放題のお店で、おそるおそる飲んだカシスオレンジ。だだっ広い河原でバーベキューをしながら、喉に流し込んだ缶チューハイ。寒い冬の恒例だった誰かの家での鍋パーティーに、必ずといっていいほどあった梅酒。たまに帰る実家で「せっかく季世が帰ってきたから」と、家族が用意してくれていた地元の日本酒やワイン。社会

三杯目のレモンサワーと逆転の神様に祈り

この世に神様がいるなら、土下座してもいい。 枕営業でも何でもするから、就職先を決めてほしい。 難なく駒を進めてきた人生のスゴロクで、「一回休み」を何回続けているのだろうか。 賽の目が5でも6でも、もう一歩のところでゴールでも、マスを戻り、戻り、また戻り。 結局、ふり出しに戻っているではないか。 気が付いたら大学4年生の夏。 周りの友達は既に内定というゴールに駒を進め、残り少ない大学生活を満喫している。 ひとり残された私はというと、エントリーシートから数えて37連敗。 暗黒

ビールの売り子と1杯の乾杯

「冷たい生ビール、いかがですかー!」 今年も、ついにこの季節がやってきた。 目を瞑れば、瞼の裏にはあの光景がすぐに映し出される。 深緑の人工芝。満員の観客。金管楽器と応援歌。冷たい樽の感触。幅が広い階段。胸に当てたくたくたなタオル。薄黒くなった膝こぞう。腱鞘炎の左指。造花の髪飾り。汗だくのユニフォームからほんのり感じる、ビールの香り。 ーー大好きな野球場で「ビールの売り子」をしていた、あの頃。 ♢♢♢ 「今日の予告先発ピッチャー見た? 試合展開早そうだよね」 「見

18歳の夏が手に入れた「乾杯」

22歳の、夏の片手はビールになった。 もしもあの18歳の夏フェスで、とびっきりの笑顔でビールを飲んでいた大人を見ていなかったら、私の片手には何があったのだろうか。 *** 18歳の、夏の片手はかき氷だった。 夏フェス会場にいる大人たちは皆、片手にアルコールがあった。とくに、シュワッシュワのビールを持っている大人は、なんだかカッコ良く見えていた。 フラットな白い泡と、少し眩しいくらいの黄金色とのコントラストが、昼下がりの気温にとても似合うと知った。 ビールに背を向け