見出し画像

「誰かがより良い人生を生きるための架け橋」になるビジネスー社会的企業・オヨリアジア

世界中の高級レストランを選別し、順位を競うミシュランガイドの「星」を獲得した一つのレストランがある。それだけではなく、このレストランは社会的企業であり、企業が測定する社会適正と指標の中の一つであるB corp (Benefit corporation)のグローバル上位5%に入った。一つ獲得するだけも大変なタイトルを、二つも所持している企業。(株)オヨリアジア(오요리아시아)のイ・ジヘ代表にお会いしてきた。

画像1

- イ・ジヘ代表、こんにちは!初めましての読者の方々のために、簡単にオヨリアジアについて紹介をお願いします。

オヨリアジアは外食業とサービス業を基盤にアジアの貧困女性たちの経済的自立を促す社会的企業です。今はネパールにあるカフェ「ミティニ」(ネパール語でシスターフッドという意味)、韓国ではミシュランレストラン「テラノ」を運営しており、外食業に関連する青年アクセラレータープログラム、都市再生現場のソーシャルビジネスモデルを発掘してインキュベートする事業を行なっています。

画像2

(オヨリアジアは、事業初期段階から移民女性の飲食業での職業訓練を通した経済的自立をミッションに掲げ、事業を展開してきた。写真:ソウル市社会的企業協議会)

「韓国で暮らす移民女性問題を解決する前に、移民女性が韓国に来る根本的な理由は何なのか、問わねばなりませんでした。」

ー 移民女性関連の事業においてはオヨリアジアがフロンティア的な役割をされていますよね。事業を展開するに至った経緯や、事業の範囲をアジアとされる理由がなぜなのか気になります。

元々はハジャセンター※で青少年たちとともに料理をする事業をしていました。その時に移民女性関連のファンドが生まれ、移民女性とともにレストランを開く提案を受けたのです。職業訓練の観点から対象を青少年から移民女性に拡大する、挑戦の時期でした。スタートから3〜4年が過ぎてからようやく移民女性を直接訓練するに至りました。そこで、生活が安定するよう仕事場を作るというビジョンの前に、なぜ移民女性が存在するのか、なぜ彼女らは韓国に来たのか、という問いを自らに再び投げかけたんです。大体の場合、移民する理由って自国の貧困状態から抜け出すためが多いじゃないですか。抜け出したい現実があるのでしょう。だとすれば、それを韓国に来て解決する前に、元いた場所での生活が良くなることの方が、より良い方法ではないのか?その社会で持続的な生活を築いていく方が、もっと良くないかな、と考えるようになったのです。それで、(株)オヨリアジアを設立し、続いてネパールとタイにカフェとレストランを開業しました。

ハジャセンター:1999年開館。公式名称は「ソウル青少年未来進路センター」で、青少年を中心とした多様な活動が展開されている場所である。

- 起業されてから13年が経ちましたよね。13年間企業を経営されながら、代表自らが大きく感じられた変化はありますか?

先に話したことのような、過程の全てが変化ですね。最近でも、本当に悩みが尽きません。また「外食業は本当に私の望む方向で、かつ社会にとって必要なインパクトをしっかり残すことができる方法なのか?」という問いの答えを探し続けています。コロナ以降、外食業の状況は非常に悪くなりましたから。それに、外食業ならではの特徴ってありますよね。店舗一つで雇用できる人数が4〜5人しかいないのなら、製品を作る方がより効果的な可能性がありますよね。それならば、実際に製品制作について考えるのも必要ではないか。そうしたら、オヨリアジアのインパクトをもっと育てて、拡散させることができるだろうか。このような考えや悩みが続いた歳月でした。

「オヨリに立ち寄った人々に食堂で働いた経験とレストランで働いた経験、何を与えることができるのか、私が決めなければならないのだと、はっと我に返りました。」

画像3

(オヨリアジアで運営するレストラン「テラノ」の入り口にて。写真:筆者撮影)

- オヨリアジアはミシュランレストランを運営する社会的企業としても有名ですよね。ファインダイニングと社会的企業は馴染みが薄い組み合わせのようにも思えますが、どうしてこの二つを組み合わせようと思われたのでしょうか?

弘益大学校(韓国語読み:ホンイクデハッキョ、以下、ホンデ)駅周辺で多文化レストラン・オヨリを運営していた時は、私もまだ修行中の段階でした。当時、ベトナムからの移民女性たちと一緒に働いていたのですが、厨房って男社会じゃないですか。調理道具も、どれもものすごく重くて、大きくて。なので、相対的に体格が小さな女性たちには、仕事がうまくこなせないのです。そんな問題を抱えていた時期に、現在「テラノ」のシェフであるシン・スンファンさんと出会いました。オヨリに料理を教えにいらしたのです。

その時「どうせ一度に2人前分しか炒めないのに、どうしてわざわざ重くて大きい中華鍋を使うんだ?小さいフライパンを使えばいいのに」という解決策をくださったんですが、そんなことをおっしゃるのはシェフが初めてでした。いつもは、料理ではないほかの仕事をしなさいとおっしゃることが多かったです。シェフのそんな問題解決能力や観点を見て、一緒に仕事をしましょうと言ったのですが、初めは断られました。私もお金がなかったので仕方がないですが(笑)

ー では、シン・スンファン氏の提案で「テラノ」をオープンされるに至ったのですか?

その後、先に連絡をくださってまたお会いすることになり、私が抱いていたミッションや当時の状況などを全てお話しし、それがもう10年前の話ですね。私もファインダイニングが何かもわからず、韓国にもそんなファインダイニングシーンなんてなかった時期でした。でももう事業をするとなったからには、勉強もしてレストランにも通ったりして、その時16万ウォン(約16,000円)のステーキを頼んだのですが、「私はソーシャルビジネスをしようとしている人間なのに、こんなに高い食事をしてよいのか」とずっと考え込んでしまったんです。ですが、シェフがピシャリとこうおっしゃったんです。「いつまで1万ウォン(約1,000円)で食事を売って、給料を渡すつもりなのか?」と。

画像4

(オヨリアジアはともに働く青年にとって、学校であり職場でもあり、心強いタイトルでもあり帰られる居場所。写真は、「テラノ」の風景。写真:ソウル市社会的企業協議会)

- 深く考えずにただ思い浮かべたとしたら、誰しもが食べられる価格帯の食事を提供する場としての社会的意味と、ビジネス的価値を創出してインパクトを作り出すことは、衝突するものと考えられることもありますから。

そしてまた、職務経験の側面でもこんな場合がありますよね。カフェに就職するといっても、スターバックスで働いた経験があるなら他の一般的なカフェでの勤務経験とは違って見られる場合がありますよね。私たちは、彼らを永遠に雇うのではなく、彼らがより良い人生を歩ませようとしているわけで。ホンデの小さなレストランで働いた経験を持たせるのか、それともファインダイニングでの経験を持たせるのか、私が決めなければならないのですから。それで、その時完全にシェフの言葉にハッとさせられたのです。オヨリアジアはこうして始まったんですよ。

「人を育てるということは、誰しもに体系的な学習を提供することより、人々が学ぶ余力がある時にいつでもアクセスできるよう、いつでもあるべき場所に存在するという意味なのだと思います。」

ー よりよい経験を提供し、次のステップを設計するという観点が非常に心を引かれますね。「テラノ」で収益を得て、他の事業に再投資するのかな?と考えてしまっていました。人とともに働くということは、非常に大変なことですが、職業訓練のスタイルとしてしっかりしたモデルを作っていくチャレンジの日々になりそうですね。

そうなのです。学ぶ人々にとってもチャレンジで、彼らとともにすること自体も挑戦です。幸い、シェフがこのような点で尊敬に値する方であり、私のミッションも尊重してくださっていますから。

飲食業界は、元々肉体労働の割合が非常に高い職業とされ、その割に賃金や社会的な認識など、多くの点で低く見られているので、辞めてしまったかと思えばまた戻ってきたり、このような例は一度や二度ではありません。1人を繋ぎ止めて3年間訓練したりなど、そんなことはないです。数ヶ月働いて辞めて、経済的に苦しくなればまた戻ってきてバイトをして、といった感じです。私たちの存在理由は、ここにあるのではないかと考えたりもします。ビジネスを持続させることは、特別な目標を達成するためだけではなく、このように訪ねてくる人々の人生の橋渡しにもなるのだと考えます。準備ができた時に、また訪ねてくるかもしれません。

「私たちが作り上げる社会的価値を自ら証明しようと、事業初期からこまめに追跡してきました。だとすれば、何を証明するのか?私たちのビジネスで誰かの人生のクオリティーがどのように上がるのか、それが私たちの作る社会的価値なのです。」

ー 料理を学んだとしても、料理を続けるかは本人の選択ですからね。最近ではB corp上位5%の企業の中に入られましたが、インパクト測定はどのようにされているのですか?どうやって高い成果を達成できたのでしょうか?インパクト測定方式を直接開発されたりしましたか?

Bcorpが示すグローバル基準は非常に高いです。企業実績で作りあげる変化だけではなく、組織が構成員の力量強化のためにどのような努力をしているか、どんな社会的価値にフォーカスし取り組んでいるかが事細かに要求されるんですよ。私たち自ら作り出す社会的価値を、私たち自身が一番理解して証明しようという内部目標がとても高く、かなり前から意識してきたことだったので、可能だったのだと思います。

有機野菜を使っているか?なんていうことを知ってほしいわけではないんですよね。私たちの影響力について話すならば、私たちと働いて、従業員の人生がどの次元で変化していったかを知るべきです。月給が80万ウォンから300万ウォンに上がったとすれば生活の質は変わりますが、そんなのはいわば私たちが変化させたことです。数値的なbefore-Afterは基本ですが、私たちと働くことになった女性たちが自身の子どもをどう育て、生きていくのか。創業支援している青年たちの人生の変化とは。廃業率、事業体の維持に対する内容など、これらの事柄について非常に事細かにチェックしていきます。国家が負担すべき社会的費用はどれだけ節減されたのかも、全て確認しています。私たちが作るインパクトを明確に計算して見せると、人々に理解させやすくなり、また理解させる方法を見つけやすくもなるのです。

画像5

(オヨリアジアの2019年認証評価の結果。当時上位10%、2021年現在上位5%を達成した。写真:B corp ホームページより転載)

- 最近Facebookにて、社内の構成員とともに女性ファンドを作られたという興味深いニュースを拝見しました。オヨリアジアの新たなプロジェクトですか?

来年、本格的に女性ファンドを一つ立ち上げます。アジアの女性たちに初期投資するファンドにするつもりです。今社内で行っているのはスタート段階で、アイデアを集めてみた段階なんです。最初の投資先は、ネパールのカフェ「マティニ」3号店です。来年は本当に本格的にファンドを立ち上げる予定で、知る限りのV C(ベンチャー・キャピタル)も一緒に連携しています。

「女性起業家は、スタートするにも持続させるにも厳しい起業生態系的な構造の上に置かれています。循環的な生態系をつくるという観点で、女性ファンドを準備中です。」

ー 女性起業家に投資すると、非常に高い成果を出すという研究結果を聞いたことがあります。

その通りです。事業家らを見ていると、ビジネスを通して力をつけるタイプの事業家と、ビジネスのディテールを事細かく詰めるタイプの事業家がいます。女性起業家の場合、事業のディテールを細かく練って、その成果を作り出していくタイプの方が若干多く見受けられます。

仕事って、本当にただがむしゃらにするだけではだめで、必ず助けが必要な時ってあるんですよね。私もその度に先輩に助けてもらいながらここまで成長できて、私もこの生態系をより健康にさせるのに寄与したいという思いがあります。素敵な後輩企業に出会い、話を聞き、投資をする経験は、私にとっても当然非常に役に立つことで、成長するための経験でもあります。早期発掘した女性たちが力尽きないようにするシードファンドがとても必要で、なぜなら同条件の起業家といってもスタートラインが違うという条件があるためです。完全に女性100%とかいうことではないですが、このような生態系の観点を持つファンドを立ち上げようとしています。

「さまざまな人と、毎日違うイシューが湧き出てくる現場に遭遇することに、どれほど感謝していることか言葉に尽くせません。」

ー インパクトの点からもグローバル基準に適合する成果を達成され、また飲食業の点でも本当に成果の象徴のようなミシュランの星を獲得され、二つの領域でこのようなタイトルを獲得されたことに驚きます。代表が考えられるオヨリアジアの長所は、どういった点でしょうか?

多様性ですね。オフィスで働くのとは完全に違いますから。みんな、違うバックグラウンドを持った人々が、毎日違う問題を解決するということ。事務職ではなく現場でみんな働いているので、問題が発生する度に直接立ち向かい、解決しなければならず、それこそがオヨリアジアの現実ですが、それがまた強みでもあります。創意的に働かなくてはなりませんが、それは各々の違いを「排除」するのではなく「一緒に」働く方法を創り出していかねばならないからです。 それが、この多くの学びの中でいちばん重要なことの一つです。 他にも感謝しきれないことが山のようにあります。

「私はアジアの女性として、私が直面した問題の解決策を探し求めるソーシャル・イノベーターです。私たちみんな、そうでしょう。」


ー では、最後の質問です。このインタビューを、国境を越えて社会をともに考えていくアジアのソーシャル・イノベーターたちにも読んでもらうことになります。アジアの構成員というアイデンティティーが、ソーシャル・イノベーターである代表に与える観点やインスピレーションはありますか?

いずれにせよ、アジアというアイデンティティーは、西洋の世界と比較すると、依然としてマイナー軸に属すると思います。 韓国で移民女性の方たちが不適切な視線を浴びたりもしますが、韓国人も同様で、他の社会に足を踏み入れると同じようなことを経験しますよね。 ですから、実のところ私は移民女性の問題を解決する韓国人ではなく、アジアの女性として私が直面する問題を解決しようとしているのです。

 私は正直なところ条件にも恵まれた部分があるので、このような話をするときは特に気を付けなければなりませんが、運よく韓国で生まれたから幸い今のような生活があるということを非常に実感しています。 そのため、韓国人というよりは、アジア女性としての部分に当事者性を感じます。 仕事と暮らしの質という。 資本主義体制の下で、女性たちが食べていく経済的問題、自立、自尊心、このようなものを解決するのは、どんな国なのかが重要ではありません。みんなが立ち向かうべき問題ですからね。 スケールを大きく捉えれば、私には地球的な問題です。 すべきことが多いです。 (笑)

画像6

(オヨリは現在も飲食業を基盤に職業訓練のみならず、スタートアップ・インキュベーティングなど、人々に投資する事業にフォーカスしている。写真:ワーカーネクト・オヨリ求人広告)

<写真提供> (株)オヨリアジア

<関連サイト> (株)オヨリアジア ホームページ

著者:Jeong So Min(チョン・ソミン)。公共文化企画者、市民一人一人が追求し創っていく公共性を信じています。過去には、個人プロジェクト型市民参加活動に関する研究を進めました。
翻訳:福田梨華
発行:IRO(代表・上前万由子)
後援:ソウル特別市青年庁・2021年青年プロジェクト(후원 : 서울특별시 청년청 '2021년 청년프로젝트)
このインタビューシリーズでは、アジア各地で社会課題解決に取り組む人々の声や生き方をお届けします。以下の記事も合わせてどうぞ!
💡【お問い合わせ】
IROや記事の内容についてのお問い合わせ・ご感想、リクエストなどは、以下のフォームまでお気軽にご連絡ください。「こんな団体や企業のこと知りたい!」「この問題、他の国ではどんな取り組みが行われているんだろう?ぜひ取り上げてほしい!」など、皆様からのリクエストをお待ちしております!
IROの全ての著作物・コンテンツ(映像、記事、写真)は、著作権法により保護されており、無断での転載及び使用を禁止しています。Copyright © 2021 이로 (IRO) . All rights reserved. mail to iro@ieorum.com

〈Asia Social Innovation Lab〉は、社会課題にまつわるテーマを丁寧に取材しコンテンツを届けていくために、広告の掲載を行わず運営しています。いただいたサポートは、より良いコンテンツを制作するための費用として使用させていただきます。