水谷慎一郎

50歳。愛知学院大学卒。写真印刷会社の営業として写真に携わるうちに自ら撮りはじめる。ドイツ、シンガポールで暮らし、現在は東京を撮っている。既婚子供2人。写真作品『今日新加坡』をぜひ見てください→ https://sm721209.myportfolio.com

水谷慎一郎

50歳。愛知学院大学卒。写真印刷会社の営業として写真に携わるうちに自ら撮りはじめる。ドイツ、シンガポールで暮らし、現在は東京を撮っている。既婚子供2人。写真作品『今日新加坡』をぜひ見てください→ https://sm721209.myportfolio.com

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    因果律 ― 川のむこうへ(写真物語)

     そろそろ、川を渡って、私は行きます。  なぜ、いま行くことになったのか。それは定かにできません。自分で決めたのだとも言えるし、何かがそうさせたのだとも言えるのです。  川の向こう岸に、たくさんの扉が見えます。そのすべての扉が、いまから始まる旅の入口になっているようです。  このうちのひとつを自ら選ぶのですが、聞いたところでは、いくつかの扉は、時期によっては施錠され、開かないことがあるそうです。つまり、まさしく「いま」が出発する時機であるということと、進入可能な「その時

      • 『今日新加坡(20-22)』と題して、コロナ禍におけるシンガポールの街頭写真をアップしておりましたが、一旦中止させていただきます。 → https://sm721209.myportfolio.com ポートフォリオにて、まとめて写真を見ることができます。ぜひご覧ください。

        • 美しきもの の記憶

          日常の記録のためにカメラで写真を撮る人は今、ちまたに数多くいる。スマート・フォンのカメラ機能や手軽なコンパクト・カメラを使っている人たちがほとんどだが、その仕上がりに満足できず、一眼レフ式のカメラを用いて本格的に撮るようになったという人も中には沢山いるだろう。一眼レフ・カメラには、交換のできる様々なレンズが揃っており、写すことのできる範囲や画像の拡大性能によって「広角・標準・望遠」などと大別され、好みや用途によって撮影者はそれらを使い分ける。 レンズにはそれぞれに特性がある。

          • 砂場で〇〇〇を掴んだら‥

            1980年代の後半にアメリカで出版され、のちに日本でも訳本が話題になった、こんな本がある。 ロバート=フルガム 著 『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』 訳者 (いけ ひろあき) 出版  河出文庫,河出書房新社 ※文庫版の初版は1996年。 ※フルガム氏のオリジナルの出版は1986年と1988年。 アメリカで、カウボーイ・歌手・IBMのセールスマン・画家・牧師など、さまざまな職業を経験し、やがて50代を迎えようかという年齢になったフルガムが、自分の身のまわりに

            まちにあるものたち

            大師線の鈴木町駅に停車しているあいだの車内で、自動ドアの開いている出入口の脇に立って出発を待っていると、さとう醤油を焦がしたような甘いにおいを外の空気から感じる。それは例えば、駅の近くの売店から流れてくるというような局所的なものではなく、もっと、この一帯に広く漂っているような感じで、におってくる。 京浜工業地帯の一角を担う神奈川県・川崎市。その中心にある川崎駅から多摩川の最下流に沿うようにして京浜急行電鉄の大師(だいし)線は走っている。 「鈴木町」(すずきちょう)は始点であ

            駅西口・路上の営業マン

            仕事の日は夜の9時から働いて、終わると朝の8時に自分のアパートに帰ってくる  ―  そんな生活を2年も続けていると、休みの日だからといって明るい時間帯に外を出歩くということが、段々と少なくなってくる。 東京・大田区の東京湾沿岸部にある青果卸売市場で、俺は、野菜の運搬の仕事をしている。夜間の肉体労働ではあるが、取り立ててキツい、というわけでもない。フォーク・リフトを操縦して 、全国各地から到着する野菜を、卸売市場内の出荷場に並べていくだけの仕事だ。休みは月に6日。毎週土曜の夜

            旦那は元犬に話しかける

            江戸の時代にあった話。 蔵前(現在の東京都台東区蔵前)の八幡神社に、境内を頻繁にうろついている1匹の白い野良犬がいた。体の毛に差し色が一切ない、ほんとうの白犬だった。その毛の美しさから、周囲の者たちには、たいへんに可愛がられていた。 この犬は、人間になりたかった。 江戸の当時の言い伝えでは「真っ白な犬は人間に生まれ変わる」とされていた。 だから、頭を撫でに近寄ってくる参詣の客たちから 《アンタは真っ白だから、生まれ変わったら、次の世は人間になれるよ》 《いつも八幡様にい

            松坂屋には、売ってない

            1 《松坂屋には、売ってない……》 《マツザカヤには、うってない……》 そう心の中でつぶやきながら、就職試験の小論文の問題に臨んだ。 「あなたが大学生活4年の間に読んだ本の感想と、そこから得られたものについて述べてください」(制限時間45分) これが与えられたテーマだった。 志賀直哉の大正時代の短編小説『小僧の神様』について僕は書いた。  —  東京で評判の、ある人気寿司店に行って、一度でいいから極上のトロの握りを食べてみたいとかねてから思っていた、商店の小僧・仙吉はあ

            真澄ちゃん、元気ですか。

            ますみさん、お元気ですか。 私は今年、50歳になります。ですから、私たちが小学校の同級生だったあの頃は、もう40年以上も前ということになりますね。 あなたについての思い出を、少しお話しさせてください。 愛知県・名古屋市立六郷小学校に通っていた私たちは、あの日も、いつものように給食のあと次の授業が始まるまで教室で遊んでいました。 女子たちは窓際の隅に集まって、ワイワイとおしゃべりをし、男子は当時流行っていたプロレスの必殺技「四の字固め」の掛け合いをして遊んでいたと思いま

            ブレイキー氏のために

            これが、この夜の最終の演奏だろう、と思う。 ホールの客は私を含めて3組しかいない。満席になれば20組は入るだろうから、こんな客入りで演奏してもらうのは、こちらが申し訳ないような気になってくる。でも、入口側のバー・カウンターには常連みたいなのが4人ほど座っているし、頭数ぜんぶ合わせれば、聴衆は10人ほどになる。プレーヤー達もこれで何とかやる気になってくれるとよいのだが。 スポット・ライトが点灯し、ステージが明るくなる。反対に客席の照明が落ちる。 男が1人、ホールの奥のトイレ

            Is it good?

            シンガポールを歩いていた。 マレー半島の先端にあるジョホール海峡をはさんで数キロ南のところにあるシンガポール共和国は、赤道に近い南国の島国である。 日の出から1時間ほどしか経っていないのに太陽の位置はもう高く感じる。 朝の8時半で、すでに蒸し暑かった。 目の前のバス通りをたくさんの車が過ぎてゆく。複数のバスが来る停留所は、職場や学校に向かう人たちの乗り降りで混み合っている。 通りに面して並んでいる古いビルの1階に食堂が1つ入っていて、5、6組の客が朝食をとっている姿が見え

            潮干狩りをする甲子園球児たち

            どこかの新聞に使われていた1枚の写真を題材にし、それに対して本来の扱われ方とは違う、ユーモアのあるコメントを回答者が思いつくまま発言するという「写真・大喜利」のようなテレビ番組を観ていました。 甲子園大会で試合に負けた高校球児たちが寄り集まって、グラウンドの土を記念に持ち帰ろうと膝をついてかき集めている姿のモノクロ写真が「お題」になっていて、メンバーの1人のお笑いタレントがそれに対して、 ≪潮干狩りをしているP高校ナイン≫ という回答を発しました。 この答えはいちおう笑い

            90分のハピネス

            彼女のことを、撮ることができるのではないかと思った。 東京・JR新宿駅を東口から出て「歌舞伎町一番街」を抜けて歩いてゆき、さらに北に —  JR線の新大久保駅方面に向かう道順で歩くのが好きだった。 土曜日の午後。歓楽街の中心は賑やかだが、はずれのほうに進むと通行人は多くない。BARや居酒屋、ホスト・クラブや焼肉店 ―  昼間に営業はしていない料飲街の裏道を歩いて、閑散とした通りの全景などを何とはなしに、持っているカメラで写真に撮る。 そのような休日の使い方が私は好きだった

            駅へと急ぐ男

            画は、得も、エモ、言われる謂れはない

            「活きのよくない」写真たち

            人間たちを撮り続けた写真家が、浅草にいた。 彼が撮影をしている姿の映像を、テレビやYOUTUBEで観たことがある。  —  東京・浅草にある浅草寺の寺務所付近に彼が立っている。参拝客の邪魔にならないよう、人の流れの傍らにたたずみ、境内を往き来する人々を眺めている。 しばらくすると、撮りたいと感じる人物が通りかかったのであろう、さりげなく彼はその人に近づき「あなたの写真を撮りたいのですが」と声をかける。 声をかけられた人は言葉に応じ、撮影に適した光の差す、寺務所の近くの朱