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『ふたりのあいだに在る写真』(短編小説)

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「ふたりのあいだに在る写真」第1話

「ふたりのあいだに在る写真」第1話

彼女は、ベランダからの眺めに心をひかれていた。

ぼくの住んでいるマンションは、工業地帯の近くの片側3車線の産業道路沿いに建っている。この道を挟んで真向かいに、横書きで「東洋建材(株)」と壁面に大きく書かれた、薄いクリーム色をしたコンクリートの建物がある。10階建てのこちらのマンションと比べると、高さは同じくらいだが建坪が5,6倍はある。外壁全体に窓はあまり見当たらない。だからこれは、建築資材か何

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「ふたりのあいだに在る写真」第2話

「ふたりのあいだに在る写真」第2話

押入れの上の段に据えた、引出し式の衣類ケースの上には空間がまだ少しあって、そこには、今はもう要らなくなってしまったCDやDVDをダンボール箱に詰めてしまい込んである。写真機とレンズが入った半透明のプラスティック・ケースはその箱のとなりにあった。ケースの把手をつかんで引っ張り出すと、黒い一眼レフ写真機とレンズ3本が透けて見えた。
畳の上に置いてフタを開ける。
まずは写真機を取り出して、それから「標準

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「ふたりのあいだに在る写真」第3話

「ふたりのあいだに在る写真」第3話

「あなたの好きなように、ただ、私を撮るだけでいいから…」— 
自分の姿を、1枚のプリントになった写真として見てみたい。そう願う彼女に、撮ってもらえないかと頼まれた5日前の夜 — あのときから、時間さえあれば、彼女のことばかりを考えるようになっている。
あの日、写真の撮影を頼まれ、少しのあいだ逡巡したが最後には、次の休みの日に撮ることにするよと、その場でぼくは返事をした。その約束の日がそこに迫ってい

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「ふたりのあいだに在る写真 」第4話

「ふたりのあいだに在る写真 」第4話

りょうからの連絡はすでにもらっている。
彼女を乗せた電車は、14時を少し過ぎたころに駅に着くようだ。
部屋のそうじは午前中に済ませてある。居間の淡いウグイス色の砂壁を撮影の際の背景として使うため、その周辺に置いてあった電気スタンドやTVボードは取り払い、その他の不要なものは全て押入れにしまっておいた。普段は出したままにしている座卓も座布団も、今日は片付けてある。
13時45分。りょうを出迎えるため

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「ふたりのあいだに在る写真」第5話

「ふたりのあいだに在る写真」第5話

今日はもうこれ以上、写真を撮ることは止めにしようと思っていた。
上半身に何も身に着けないまま彼女は、ぼくの目の前にいる。両の腕を胸のあたりで組んで乳房を隠し、やや背中を丸め、俯き加減で椅子に座っている。目は虚ろで、こちらを見ていない。このままだと、彼女は泣き崩れてしまいそうだった。
花束を胸に抱いた自分を撮ってほしい ―  その願い通りに、ぼくは彼女の姿を撮影した。36枚撮りのフィルム1本半ほどは

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あとがき 『ふたりのあいだに在る写真』  水谷慎一郎

あとがき 『ふたりのあいだに在る写真』 水谷慎一郎

「note」に全5回にわたり投稿した『ふたりのあいだに在る写真』を読んでいただき、有り難うございました。

3万字を超える物語の執筆は初めての試みで、構成の面白さ・ストーリー全体の整合性や一貫性への配慮はさることながら、飽きさせず先に読み進んでもらう工夫・よどみ無くスクロールしていけるような文体にする等、SNS投稿プラットフォームならではの文章作成の大変さも今回、実感した次第です。

写真にまつわ

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