#335 伝統は「美」か、それとも「悪魔」か?

 宝塚歌劇団は、阪急電鉄の前身、箕面有馬電気軌道創始者の小林一三が、1913年(大正2年)に結成した宝塚唱歌隊を前身としており、宝塚音楽学校は各種私立学校であり、歌劇団員養成所として機能しています。

 宝塚歌劇団は全国各地に熱狂的なファンを有する芸能コンテンツであり、宝塚音楽学校は毎年20倍の倍率を誇ります。宝塚歌劇は、華やかな舞台で活躍する未来を夢みる多くの少女にとっては憧れであり、私の友人の妹が音楽学校に合格した時は、地元ではかなり噂になりました。

 私の通っていた大学は宝塚歌劇と音楽学校の近くに位置しています。音楽学校の生徒及び劇団員は、電車や街で見かけたらすぐにそうだとわかるほど存在感がある。ピンと伸びた背筋、綺麗に結われた黒髪、キリッとした表情はやはり一般の人とは違う。彼女たちの佇まいには、100年以上受け継がれてきた歴史と伝統が映し出されます。一方、学生時代の私は何か違和感を感じていたことも事実。彼女たちのその凛とした佇まいの奥に「束縛」の二文字が見え隠れする。舞台での成功を夢見るため、彼女たちは自分の心を犠牲にしているように思えてなりませんでした。

 確か約1年ほど前、仕事関連の雑談の中で、偶然宝塚音楽学校が話題にあがりました。教育業界では主体的な学びや多様性が叫ばれている中、宝塚音楽学校はその歴史と伝統のままで存在し続けることができるのだろうかと。その時の会話の結論は「遅かれ早かれ」でしたが、その「遅かれ早かれ」がこんなすぐにやって来るとは流石に思いませんでしたが、、、。

 宝塚歌劇の劇団員が、上級生からの強烈なイジメが原因で自殺したというニュース。

 音楽学校では異常な上下関係があると言います。上級生は絶対的な権力をもち、「しつけ」という名の下、下級生に接する。歌劇団入団後も、その関係性は崩れることなく、様々なプレッシャーを与えることになる。最悪の事態が起こってしまった。

私たちは今自分に問わなければならない。今回の事件の原因は、その上級生だけなのか。宝塚歌劇や音楽学校の伝統を賛美し、その伝統の中で多くの少女の苦しさを美化し、巨大なコンテンツにしたのは誰なのか。伝統とは「美」なのか、それとも「悪魔」なのか?

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