マガジンのカバー画像

創作 僕は自転車で旅をする

43
創作  ハンデキャップを持った少年と家族の物語。 フィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 主人公名前は推しの 〈空気階段〉 のお二人から。苗字出てきませ… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

創作 僕は自転車(42)

 ぼくはスパイには向いていない。それはよくわかった。だご、スパイは一日にしてならず、だ。
 ともかくこの日、ぼくはスパイならぬ、酸っぱい顔で家のドアを開けた。

もっとみる

創作 僕は自転車で (41)

 カレンダーに父と母は自分達の仕事の予定を書き込んでいる。だから、多分二人の仕事の時間が重なる日が、明日香が一人で帰って来る日だろうな、って、予測はつけていた。朝、母がしつこいくらいに帰りは気をつけてね、って言ってたし。

もっとみる

創作 僕は自転車で (40)

 短い春休みに、感情がジェットコースターみたいに上昇、急降下、そして、また、少し上がって、新学期の登校日あたりには通常モードに戻りつつあった。ご飯も美味しい。モリモリ食べる。

もっとみる

創作 僕は自転車で (39)

 うちに着く前にため息を100回くらいついた。

 次の日は、自転車に乗ってる姿を誰かに見られるのが恥ずかしくて、部屋に篭った。
 母は、今日は自転車に乗らないの、って心配してくれた。どこか具合が悪い?ご飯もあんまり食べないし。

もっとみる

創作 僕は自転車で (38)

 〈緑だ、進め号〉と共に、今日も快調に見回り。おとといから始めて、昨日も子どもを狙っているような怪しい人は見かけなかった。今日は三日目。最初の公園でも、いつもの風景。ぼくは〈緑だ、進め号〉を降りてゆっくり押しながら子どもたちの安全を確認する。乗り物のそばに怪しい大人がいないかな。木の後ろに怪しい大人はいないかな。なんとなくぼくの頭にある怪しい大人って、黒いハットをかぶって、サングラスかけてマスクし

もっとみる

創作 僕は自転車で(37)

 交番にはホームベース型の顔のお巡りさん、母のいうところのイケPMがいて、ぼくがツクシを見せると、お、春だね、って、夏みたいな笑顔で言ってくれた。ぼくはすごくほっとして、すごく嬉しくなる。もちろんこの日も、ちゃんとヘルメットを取ったし、お辞儀して挨拶もした。

もっとみる

創作 僕は自転車で (36)

 スマホを見ていた母が、春っぽい話題でも、こういうのは嫌ねえ、と、顔を顰めた。不審者情報だって。
 小学校の春休み中のお知らせLINEで送られてきたようだ。

もっとみる

創作 僕は自転車で (35)

 コウタは来年中学生。だから、今年、じいちゃんはコウタに言っておきたいんだ。山登り 嫌だったらやめていいよ
 コウタのパパは そう言ったら、ほんとにやめたよ。まあ、やめていいんだけどね。
 ははは、と、じいちゃんは、笑った。
 中学校だと、部活があったりして、なかなか忙しいからね。

もっとみる

創作 僕は自転車で (34)

 じいちゃんと山に行くのも久しぶり。街より早い紅葉を見に行ったのが前のシーズン最後だった。冬山は、ジジイと小学生には危なすぎる、春まで待とう、と、僕の作ったおにぎりを頬張りながらじいちゃんが言って、山登りチームは春を待つことにした。

もっとみる

創作 僕は自転車で (33)

 小学校の担任の先生は毎年変わった。変化が苦手なぼくはその都度気持ちが落ち着かなくて、陰鬱な4月を迎える。
 救いは、岩下先生が変わらずにずっと特別支援の先生を受け持ってくれていたことだ。それがとうとうぼくが5年生の終わりの3月、転出することがわかった。
 母は、あと1年なのにねえ、と、残念がった。

もっとみる

創作 僕は自転車で (32)

 父の運転する車に乗って、母とぼくの3人で結構離れたところにある建物で開催された絵画展に行く。
 学校から展示会の案内プリントが来た。コウタの絵が最優秀で展示されてるんだから、期間中に絶対行くぞ、と父は意気込んだ。
 明日香は、大袈裟、って言う。父が休みを開催期間中にとって、この日に家族で行こう、と決めたときも、その日は、ママばぁばか、パパばあちゃんのところたに行きたい、って明日香は言った。

もっとみる

創作 僕は自転車で(31)

 全校朝会で、絵画展に出品した作品が何点か入賞したことを、校長先生が報告した。何点かのうちに、ぼくの絵が入っていた。校長先生がぼくの名前を最後に出した時は、すごくびっくりして、何かで失敗があって叱られるんだろうか、って不安になったくらいだ。ぼくの絵は最優秀作品に選ばれていた。

もっとみる

創作 僕は自転車で (30)

 夏休みの自由研究を、研究じゃないヤツで、二つ提出した。

もっとみる