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【小説】ご注文はいかがなさいますか?(#たいらとショートショート)

「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
「じゃあ……カシスオレンジ2つ」
「かしこまりました」

 20歳になった記念にと、仕事帰りにやってきた居酒屋。
 帰路にあるので知ってはいたが、実際に入るのは今日が初めてだった。
 一緒にやってきたカエデは、飲み物を頼んだきり、ずっと下を向いてスマホをいじっている。
 最近の彼女は常にそうだ。スマホも体の一部なんじゃないかと思えてくる。
「何見てるの?」
「……」
 聞いても返事はなく、画面上を這う彼女の指の動きは止まらない。
 諦めてメニューを手に取る僕。
 冊子状のメニューの表紙は、多数のニワトリがコチラを向いているイラストだ。
「自慢の焼き鳥3種盛り、ジューシー鶏唐揚げ、トリ白子ポン酢……」
 1ページ目に載っていた美味しそうな料理名をわざと声に出してみるが、反応はない。
 肉の中では鶏肉が1番好きと彼女が言っていたので、この店に決めたのである。
 しかし彼女はそんな僕の思いを知ってか知らずか、どことなく不機嫌そうな顔でスマホをタップしている。
 僕は静かにメニューを閉じる。

 ちょうど干支がひと回りする12歳年下の彼女は、高校卒業をした2年前、僕と同じ会社に入ってきた。すぐに意気投合し、交際が始まった。
 そんな彼女が20歳を迎えたのはつい先月。
 本当は普段なら手が届かないようなフレンチを誕生日当日に予約していたが、互いに残業が長引いてしまい、結局行けなかった。
 今日は、そのお詫びの意味もある。

「ねえ。もう別れよう、私たち」
 スマホから顔を上げたカエデが急に言った。
 あまりに突然の出来事に、僕は思考停止する。
「……え?」
「ねえ、別れよう」
 念押しするように繰り返す。
「ちょっと待ってよ」
「ごめん……」
 彼女の態度がいつからか冷たかったのは、別れを切り出したかったからか。
 年下彼女との初居酒屋デートは、悲しく虚しい思い出になりそうだ。

 何も知らない店員がカシスオレンジを2つ持ってやってくる。
 そして呑気に言うのだった。
「ご注文はいかがなさいますか?」

《終》(850字)

私たいらの、はじめての企画。
はじめおわりが固定されたショートショート。

最初の一文
「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
最後の一文
「ご注文はいかがなさいますか?」

【ひっそり募集】していたはずなのに、現時点で早くも30名ほどの参加が!!

皆さま、本当にありがとうございます😊

2、3名でいいのでやってくれたら嬉しいな〜なんて軽い気持ちで始めたので、人数の多さにかなり驚いています。

そして投稿のスピード感。次々に投稿が増えていく……!

あまりのレベルの高さに、お題を出した本人がどんどん書きにくくなってしまう……!

でも、そんなこと気にしても仕方ないので、私も気楽に企画に参加する1人のつもりで書いてみました。

本当は投稿していただいた全ての作品にコメントを付けたいのですが、まだ追いついていません。ごめんなさい。

これからも【ひっそり募集】してるので、よろしければぜひ。

#たいらとショートショート  で検索して、他の方の作品も見に行ってみてください。

では。

《了》

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