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岩崎小彌太に浸る7日間 vol.1📜「英国留学」

家族構成・人物像

岩崎小彌太は1879年に、父彌之助と母早苗(後藤象二郎の長女)の長男として生まれました。小彌太には4歳年上の姉繁子、2歳年下の弟俊彌(旭硝子株式会社を創立、現・AGC)、8歳年下の弟輝彌がいました(輝彌は日本の鉄道ファンの元祖と言われています=撮り鉄)。

自宅は現在の東京都千代田区神田駿河台4丁目6番地、ニコライ堂の近くが生家でした。この場所は彌之助が母早苗の父後藤象二郎から譲り受けた家でした。小彌太は当時まだ珍しかった自転車に乗って、この家から学校に通っていました(当時の自転車は1台400万円ほどしたようです。私が乗っている自転車の約100倍!)。

明治中期の日本人男子の平均身長は153センチですが、小彌太は身長が約180センチ、体重が約130キロある巨漢で、ウイスキー瓶2本を開ける酒豪でもありました。

進学・学寮の様子

1891年に高等師範学校附属の中等科に進学した小彌太は、両親の方針に従って岩崎学寮で寄宿舎生活を送ることとなりました。岩崎学寮は、岩崎家が育英の趣旨で選抜し入寮させた大学・高等学校在学中の青年たちのための寄宿舎の1つで、岩崎久彌家の学寮を雛鳳(すうほう)寮、彌之助家の学寮は潜龍窟(せんりゅうくつ)と呼ばれていました(武田晴人『岩崎小彌太―三菱のDNAを創り上げた四代目―』PHP研究所、2020年、21p)。

雛鳳は鳳雛と言われることが多いですが、将来鳳凰のように立派になる雛(将来が期待される子供・若者)のことです(三国志では龐統が鳳雛、諸葛亮が臥龍ですね)。

イギリス留学

その後、第一高等学校から、1899年に東京帝国大学法科大学に入学しましたが、1年余りで中退し、イギリスに留学し、ケンブリッジ大学に留学生ではなく本科生として入学しました。

岩崎家には子弟を欧米の大学に入学させ、一流の教育を受けさせる習慣がありました。歴代の彌太郎・彌之助・久彌もアメリカに留学していますが、小彌太は加藤高明(彌太郎の女婿、24代総理大臣)の助言で、弟の俊彌とともにイギリスに留学しました。

当時、ほとんどの人が本科生ではなく留学生のような形で大学に入学していました。 それは本科生だと英語だけでなくラテン語や古典学なども入学試験に課されるからで、ただでさえ難しい試験がさらに難しくなるということで多くの人が避けていました。

小彌太は本科生として入学し、1905年に歴史学科を卒業しました(外国の大学への入学はいろいろと詐称疑惑も起きていますが、本科生で入学した小彌太は本当にすごいです)。

当時の小彌太の学友として、浜口担(ヤマサ醤油の創業家)、松平恒雄(松平容保の4男)、今村繁三(成蹊学園の創立を小彌太とともに財政的に支援)などがいました。夏目漱石も小彌太と同時期にイギリス留学しており、記録には残っていませんが、小彌太と会っていたかもしれません。

帰国後の様子

1906年に28歳で帰国すると、翌1907年に島津孝子(久光の四男珍彦の娘)と結婚しました(ケンブリッジ大の友人には絶対に一生結婚しないと言っていたようですが、帰国後すぐに結婚したことを知って友人は驚いたようです)。

そして、帰国すると、父彌之助から三菱合資会社に入社するように説得されますが、その時の小彌太の気持ちとして、

「自分は国へ帰ったならば政治界へ出て日本社会の向上改革に力を尽くしたいと考えていた。

ところが帰るとすぐに父に呼ばれ、三菱の副社長になるように厳命を受けた。誠に当惑をしたわけである。

そこでいろいろ考えた末、もし会社で名義だけの虚職を擁することなら御免を被る、しかしもし実業界に対し自分の考えを思う存分にやらせてもらえるならばご命令に従いますといった。

父はそれでよいと承知したので会社に入る決心をした」

と話しています(宮川隆泰『岩崎小彌太~三菱を育てた経営理念』中央公論社、1996、38p、以下同書籍からの引用はページ数のみ記載)。

また、

「55歳の定年になったら俺は会社をやめる。それから新聞事業をやる。

今の新聞は政党などに動かされて言論が不公平であるから、不偏不党の立派な新聞を作って社会に貢献するつもりである」(33p)

とも述べています。

ついにその夢はかないませんでしたが、英国留学の経験を活かして、金融危機、国際的孤立、軍国化、太平洋戦争への突入という激動の昭和前半を、持ち前の大和魂と西洋の自由主義的な考え(和魂洋才)、大局観と現実感覚を兼ね備えた、特段にバランス感覚に優れたリーダーとして、三菱を牽引しました。

――(次回 vol.2へ続く)


▼「岩崎小彌太に浸る7日間」シリーズはこちら

📖岩崎小彌太に浸る7日間 序説

📖Vol.2 「先進的な組織改革と独自の進化形態」

📖Vol.3 「三菱合資会社の社長に就任」

📖Vol.4 「三綱領につながる小彌太の哲学①所期奉公」

📖Vol.5 「小彌太の哲学②Speculationを排せよ」

📖Vol.6 「三綱領につながる小彌太の哲学③企業活動のIntegrity(誠実)and Fairness(公正)」

📖Vol.7 「《最終回》小彌太と財閥解体」

▼渋沢栄一・松下幸之助・孫子など「偉人に学ぶ」研修シリーズはこちら


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