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映画鑑賞

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映画感想など
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2024年6月の記事一覧

人と人はわかりあえない。だからこそ誠実に向かいあう~映画『違国日記』~

人と人は絶対にわかりあえない。

そう聞くと、「シニシズムだ」とか何とか怒り出す人がいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。
「人のコト、或いは気持ちがわからない」と言っているのではなく、「人と人はわかりあえない」と言っているのだし、それは「シニシズム」や「諦め」を意味しない。
それは、映画『違国日記』(瀬田なつき監督、2024年。以下、本作)を観ればわかる。

本作はヤマシタトモコの人気漫画を

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バカで熱くておめでたい。最高の若者映画~映画『明けまして、おめでたい人』~

バカで熱くておめでたい。最高の若者映画~映画『明けまして、おめでたい人』~

あ~、俺が20~30代だったら、絶対泣いてたな。

映画『明けまして、おめでたい人』(ウトユウマ監督、2023年。以下、本作)がエンドロールに向かってがむしゃらに疾走する最終盤を観ながら、あらためて自分が50歳を過ぎたことを実感していた。

読んでわかるとおり、本作は『俳優 山脇辰哉の身に実際に起きた年末の出来事を』『俳優 山脇辰哉』が『俳優 山脇辰哉』役として自ら「再現」する、『こんなに「俺が俺

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宇宙人に癒される~映画『みーんな、宇宙人。』~

宇宙人に癒される~映画『みーんな、宇宙人。』~

映画『みーんな、宇宙人。』(宇賀那健一監督、2024年。以下、本作)を観ながら、「最近、皆、考えすぎなんじゃないか」と漠然と思った。

物語は各登場人物につき10分程度のショートストーリーのオムニバスといった構造で、だから登場人物たちが交流することはほぼない。
オムニバスを1つの物語として成立させる「筋」を担っているのが冒頭・中盤・結末に登場するセイヤで、だから彼が一応の主人公ともいえる。

登場

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NHKドラマ『パーセント』最終回についての一考

NHKにて2024年5月11日から4回シリーズで放送された、障がい者の役を障がい者自身が演じるドラマ『パーセント』のテーマは、「障がい者とともにある世界」であったと思う。
"note"にも、ドラマ自体や主演の伊藤万理華さんに関する記事が多く投稿されている。
私もいくつかを読み、その1つにコメント書き込ませていただいたりもした。

私が書いたコメントは、最終回の最終盤に登場した、未来とともにクレーン

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映画『からかい上手の高木さん』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

映画『からかい上手の高木さん』(今泉力哉監督、2024年。以下、本作)で、西片と高木さんの「関係性」の顛末に安堵して、思わず笑ってしまった。
その安堵は、ある意味においての「ハッピーエンド」に対してではなく、「やっぱり今泉作品だ」ということに対してだ。

本作公開に関連して2024年6月9日に放送されたテレビ番組『情熱大陸』(TBS系……だったのは本作の製作がTBSだったから)で、今泉監督は『恋愛

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こどもは天使かそれとも……~映画『だれかが歌ってる』/『左手に気をつけろ』

こどもは天使かそれとも……~映画『だれかが歌ってる』/『左手に気をつけろ』

「愛すべきB級映画」である。
みんなが「良い」とは言わないが、しかし、だれかには確実に届く。それは特定の嗜好を持った人という意味ではなく、たとえば疲れている時とか、理由なく入って来るという意味で。

2023年の東京国際映画祭でも上映された井口奈己監督の最新作『左手に気をつけろ』(2023年。以下、『左手』)が劇場公開された。43分の中編映画に、井口監督の過去作『だれかが歌ってる』(2019年。以

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映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず) (追記)

映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず) (追記)

先日、2006年に木村カエラ氏をボーカルに迎え再々結成した「サディスティック・ミカ・バンド(Sadistic Mikaera Band)」のライブ(2007年3月7日。@NHKホール)を見返した。
といっても、ちゃんと見ていたわけではなく、BGV的に流しながら家のあれこれをやっていたのだが、加藤和彦氏(愛称・トノバン)が歌う詞に手が止まった。

本当はそんな歌じゃないし、その時本人もそんな気持ちで

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映画の遊び心、笑うか怒るか困惑するか~映画『走れない人の走り方』~

映画の遊び心、笑うか怒るか困惑するか~映画『走れない人の走り方』~

映画の全てのシーンはストーリーに奉仕すべきだ。
そんな信念を持つ人は、怒り出すかもしれない。
ただ漫然と「映画ってそういうものだよね」と思っている人は「ワケがわからない……」と困惑するかもしれない。

私はというと、映画『走れない人の走り方』(蘇鈺淳監督、2024年公開。以下、本作)を観ながら、ずっとニヤニヤしていた(何せ、『日本の映画館は静か』なのだから)。
ドイツの映画祭で観た現地の人たちは爆

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