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映画鑑賞

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映画感想など
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2023年10月の記事一覧

映画『わたくしどもは。』~東京国際映画祭 2023 ワールドプレミア先行上映~

来年(2024年)公開だから詳しくは書かないが、映画『わたくしどもは。』(富名哲也監督。以下、本作)は、端的に言えば「来世で一緒になろう」的心中の後日譚ということになるだろう。
死者(見習い)の世界を描く物語は、松田龍平と小松菜奈を主役に配しながらもファンタジーではなく、徹底的にリアルだ。
それは、この手の映画にありがちなCGなど特殊効果をほぼ使っていないということもそうだが、死者(見習い)の世界

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映画『違う惑星の変な恋人』~東京国際映画祭 2023 ワールドプレミア先行上映~

久しぶりにゲラゲラ笑った。

映画『違う惑星の変な恋人』(木村聡志監督、2024年公開予定。以下、本作)は、脱臼しっぱなしの"POPで素敵な"会話劇だ。

本作、野暮な表現に落とし込んでしまえば、終盤のスポーツカフェのシーンにあるように、「一方通行の愛情ゆえに閉じてしまった四角関係」の恋愛群像劇、ということになる。
ドロドロにしようと思えばいくらでも可能なシチュエーションを、自ら脚本も書いた木村監

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おかえりただいま~映画『こいびとのみつけかた』~

おかえりただいま~映画『こいびとのみつけかた』~

映画『こいびとのみつけかた』(前田弘二監督、2023年。以下、本作)の上映前舞台挨拶で、主人公・杜和を演じた倉悠貴が『本作が、観た方の"シェルター"になりますように』というようなことを言った後に始まった本編に戸惑った。

戸惑った理由は、トワも園子も、云ってみれば「軽い知的障害者」のような描かれ方をしていて、全てひらがなで表記されたメルヘンチックなタイトルも相まって、1990年代半ばにヒットした一

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渡辺美里『misato born Ⅳ 愛と感動の超青春ライブ』~EPICレコード創立45周年記念 毎木7ライヴ・フィルム・フェスティヴァル2023 Vol.6~

EPICレコード創立45周年記念として、毎週木曜日に1980~90年代のライヴ・フィルムを映画館で上映する企画の第6弾(シリーズは全7作品)は、渡辺美里『misato born Ⅳ 愛と感動の超青春ライブ』(以下、本作)である。

私は、過去の拙稿で何度か、「中学2年生の時に観た小泉今日子さんのコンサートでライブ鑑賞・観劇に目覚めた」と書いた。
それは間違っていないのだが、本格的にハマったのは、実

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映画『彼方のうた』~東京国際映画祭2023 ジャパン・プレミア先行上映~

映画『彼方のうた』(杉田協士監督、2024年1月公開予定。以下、本作)を説明することはできない。

公式にはこの程度しか発表されていないようだが、(驚くべきことに!)作品がこれ以上の情報を提供したり補完したりすることは、一切ない。
それどころか本作は、(驚くべきことに!)「映画・物語において映っているはず(映すべき)モノ」が、ほぼ全くと言っていいほど映っていない。
なのに("だから"でもある)、本

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映画『ガザの美容室』~UPLINK吉祥寺 緊急100円上映~

見逃した作品を映画館で再上映してくれるのは、ありがたいし、嬉しい。
だが、こんな形での再上映は、とても辛い。
しかし、だからこそ観たいと思ったし、観なくてはいけないとも思った。
多くの人が同じ気持ちだったことは、満席になった映画館が証明している。

2023年10月に勃発した紛争により、またしてもパレスチナ自治区ガザが壊滅的な被害となっているのを受け、UPLINK吉祥寺が、映画『ガザの美容室』(タ

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映画『アンダーカレント』を観て思った取り留めもないこと…(感想に非ず)

映画『アンダーカレント』(豊田徹也原作、今泉力哉監督、2023年。以下、本作)は感想が書きづらい作品だ。
それは内容が難解という意味ではない。
むしろ、「(堀(井浦新)や悟(永山瑛太)といった)物語的な謎」については劇中でほぼ説明されている。

「書きづらい」というのは、本作のテーマが、リリー・フランキー演じる探偵が、主人公・かなえ(真木よう子)に対して問う、『人をわかるってどういうことですか?』

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演劇・ミュージカル好き必見映画『シアター・キャンプ』

演劇、とりわけミュージカル好きにとって映画『シアター・キャンプ』(モリー・ゴードン、ニック・リーバーマン共同監督、日本公開2023年。以下、本作)は、新しい知識と、当たり前すぎて忘れていた大事なことを教えてくれる。

まず、「新しい知識」とは、「モキュメンタリー」という手法である。
この手法は、「生身の人間が観客の眼前で演じる」ことが基本の演劇やミュージカルでは馴染みがない(とはいえ、観劇好きは日

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恋愛物語入門としての「古典」の凄み~映画『こん、こん。』~

映画『こん、こん。』(横尾初喜監督、2023年。以下、本作)は、映画鑑賞に興味はあるが、経験不足などに由来する気後れで二の足を踏んでいる若い人にお薦めの作品である。

現代では、観客を飽きさせないために、とにかく「仕掛け」で攻めようとする映画も少なくない(SNSのショートムービーに慣れた若者世代向けの作品は、特にこの傾向が過剰な方向に加速しているように見える)。
しかし、そんな小手先のテクニックに

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