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Fictional Diary

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in企画、藍屋奈々子の空想旅行記。ほんものの写真と、ほんとうじゃないかもしれない思い出。日刊!
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#日記

fictional diary#1 雨の日のひみつ

fictional diary#1 雨の日のひみつ



その日は雨がいちにちじゅう降る、と朝のニュースで言っていた、と思う。外国語で流れるニュースは音として耳を通り過ぎていくだけで、画面のなかの傘の絵や、ちょっと悲しげなアナウンサーのひとの顔からなんとなくそう言っているのかなと思ってそういうことにしただけなのだけど。ひとりで窓の外を見ながらもくもくと朝ごはんを食べていると、その町にもう3ヶ月住んでいる友達がホテルの部屋まで迎えにきてくれた。久々の再

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fictional diary#2 窓からみえるものたち

fictional diary#2 窓からみえるものたち



その日は、友達が住んでいる部屋に遊びにいった。知らない土地だし、言葉もわからないので、建物の場所を見つけるまでにすこし迷った。壁が白くて、屋根に小さな銀色の鳩のついたアパートのワンルーム。ドアを開けて中に入ると、ベッドと机で部屋のほとんどが埋まっていた。狭くてごめんね。言われたとおり、たしかに狭かったけど、窓が広いのできゅうくつな感じはなかった。窓の外には背の高い枯れた木が、何本も道路沿いにな

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fictional diary#3 やっかいもの

fictional diary#3 やっかいもの



その日は、街の中心から少し離れたところにある遺跡を見に行くことにした。宿を出てすぐのところにあるバス停から、車体の側面に黄色の線のついたバスにのって、20分。バスの窓からはいまにも雨の降り出しそうな、白く煙った空が見えていて、すこし心配になった。バスを降りると、遺跡は目の前にあった。目の前、というより、目の下。そこには、ガイドブックで何度も見た、あの有名な石畳が広がっていた。中世の職人たちが丹

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fictional diary#4 鳥に気をつけて

fictional diary#4 鳥に気をつけて



その日は、泊まっている宿の近くにある公園に散歩に行った。ここにはほとんど毎朝来ているけど、週末はもちろん、平日でも、いつ行っても、家族連れや犬の散歩をする人、ジョギングをする人や楽器の練習をする人でにぎわっている。公園の入り口にはホットドッグを売っている屋台があって、近くを通ると肉を焼く香りとジュージューいう音が漂ってくる。大きな公園の景色って、どこの国でも似たようなものだな、と思いながらのん

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fictional diary#5 ごはんと音楽

fictional diary#5 ごはんと音楽



飛行機でべつの国に移動する途中、まったく名前を聞いたことのない町で、半日くらい時間をつぶさないといけなくなってしまった。安いチケットを買うとたまにこういうことがある。空港は狭くて、あまり見るものもなかったので、せっかくだから観光しようと外に出てみることにした。バスで町の中心まで向かい、教会前の大きな広場にたどり着いた。なにか食べようと思って探していると、いくつかのレストランやカフェが集合した白

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fictional diary#6 どこに向かうの

fictional diary#6 どこに向かうの



移動中にふしぎな標識をみつけた。方向と行き先を指し示すプレートには、それぞれ実在する公園や建物の名前が書かれているのだけど、実際にそのとおりの方向に進んでみると、目指す目的の場所がいつまでたっても現れない。おかしいなと思って、もう一度標識のあるところまで戻ってみた。プレートをよくよくみてみると、どうやら標識の矢印が右に90度ずれているみたいだった。検証してみようと、今度はべつの方角に進んでみた

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fictional diary#7 旅芸人の終着地点

fictional diary#7 旅芸人の終着地点



あたらしい町にたどり着いた。あたらしい町ではいつも、まず最初に町の中心に行ってみる。どこでもたいていお城や教会、お寺が町の中心になっている。たまには四角い公園のこともある。この町はすこし珍しく、まん丸の形をした公園が真ん中にあって、そこから広がるように道路が外に伸びていた。その町の宿で出会った人が話をしてくれたのだが、その丸い公園は、円形劇場の跡地なのだそうだ。昔、国中を巡る旅芸人の一座が、旅

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fictional diary#8 空に似た窓

fictional diary#8 空に似た窓



田舎のほうに住んでいる友達の家に泊めてもらうことになった。山の麓にあるその家は、古くて立派なお屋敷で、わたしは友達がまさかこんな家に住んでいるとは思わなかったので驚いた。部屋の家具も、映画のセットみたいな、それか骨董品屋に並んでいるようなものばかりだった。友達はそこにひとりで住んでいて、動物をたくさん飼っていた。犬、猫はもちろん、カゴに入ったたくさんの鳥、猫よけの金網がついた水槽には熱帯魚、庭

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fictional diary#9 光の色の足し算

fictional diary#9 光の色の足し算



その国の、海沿いの小さな町でガラス職人をしている友人の
ところを訪ねた。彼の住んでいる家は、海を見晴らす丘の上
にあって、家の外壁は、曇りの日の海のような霞んだ水色に
塗られていた。玄関を入るとすぐに、部屋からあふれ出そう
なほどたくさんの、どれも青っぽい色のガラスでできた品物
が並んでいた。ガラスでできた花瓶、コップ、お皿、時計板、
ランプシェード、手のひらサイズの動物のガラス細工。どの

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fictional diary#10 赤い車のふしぎ

fictional diary#10 赤い車のふしぎ



その町で、車道のそばをずっと長いこと歩いていたときに、おかしなことに気がついた。赤い車がとても多いのだ。道を眺めていると、3台に1台くらいの割合で赤い車が通る。よその町にも赤い車がないわけじゃないけど、こんなにたくさん見たことは今までなかった。小さな駐車場の前を通ると、そこも不思議なほど赤い車ばかりが並んでいた。緑の草原と、煉瓦造りの家がほとんどを占めるこの町に、赤い車がそれほどよく似合うとい

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fictional diary#11 誕生日みたいな

fictional diary#11 誕生日みたいな



一見、どこの駅にもあるようなありふれた売店に見える。コーヒーや紅茶、ジュースやちょっとしたお菓子を駅のホームで売っている、そういう店。わたしがそこで初めて買い物をしたのは、偶然がきっかけだった。その日わたしは次の街に向かうために、長距離電車に乗ろうとしていた。でも昨夜からの大雨と風の影響で電車が止まってしまい、いつまた動き出すのかわからない電車を、駅でしばらく待たなくてはいけなくなってしまった

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fictional diary#12 水から生まれる

fictional diary#12 水から生まれる



牧草地や畑に囲まれた小さな町の、教会につづく道の途中でふしぎなものを見つけた。パン屋や雑貨屋、薬局など地元の店が軒を連ねるなかに、薄暗い古物屋があって、使い古しの家具や食器を売っていた。その店先に、灰色の石でできた大きめの水差し、のようなものが出ていて、なかには水がいっぱいに満たされているのだ。膝より少し高いくらいの大きさで、小ぶりだけれどずっしり重たそうだ。魚でも飼っているのだろうか、と覗き

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fictional diary#13  鈴の木

fictional diary#13  鈴の木



背の高い、わたしの国ではあまり見たことのない木がたくさん生えている、広い公園を散歩していた。町のいちばん真ん中にある公園なのに、驚くほど静かで、風が枯れ木や芝生を揺らすさわさわとした音がよく耳に入ってくる。誰かが手入れしているらしいきれいな芝生をじっと眺めながら歩いていたら、地面に木の実が落ちているのを見つけた。胡桃くらいのおおきさだけど、それよりもっと小ぶりで、色は黒に近いような濃い茶色。手

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fictional diary#14  想像上の象

fictional diary#14  想像上の象



バスを待っていた。季節にしては暑すぎるくらいのよく晴れた日で、わたしは着てきた上着を脱いだ。バス停には何人かほかの観光客も並んでいて、ガイドブックやカメラを手に楽しそうにおしゃべりをしていた。バスの行き先は有名な遺跡だった。草原の真ん中にそびえたつ、高さ25メートル、重さ5トン以上の、中途半端に巨大な象の像。象なんてまったくいないこの国に、なぜそんな遺跡があるのかは、世界七不思議に入るほどでは

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