ina111 / 稲川貴大

インターステラテクノロジズというロケット会社の代表。北海道大樹町か千葉県浦安市。 技術+経営。MOMOというロケット作りました。宇宙を身近に。 文科省 将来宇宙輸送システム調査検討小委員会 委員・Our Stars取締役・北海道科学大学客員准教授・東大非常勤講師

ina111 / 稲川貴大

インターステラテクノロジズというロケット会社の代表。北海道大樹町か千葉県浦安市。 技術+経営。MOMOというロケット作りました。宇宙を身近に。 文科省 将来宇宙輸送システム調査検討小委員会 委員・Our Stars取締役・北海道科学大学客員准教授・東大非常勤講師

    最近の記事

    グッバイメガネ(日記)

    誕生日を迎え、30代も半ばを過ぎてきた。 このぐらいの年齢になるとなのか、周りに助けられているために出来ることが増えるようなレベルアップは感じ続けているが、自分個人のレベルアップ速度は鈍化しているような気持ちになる。 なにかレベルアップになるようなもの出来ないかと考えているうちに、これからは身体性が重要な時代が来るはずで、そのためにすぐ出来ることとして、メガネを辞めようと決めた。完全に思いつきである。 思いつきとはいえ、目的は2つ。 1つ目。メタバースやAR/VRのた

      • ロケット打上中止後の延期は失敗なのか?

        日本の新しい基幹ロケットのH3の初号機の打上げが2023年2月17日に予定されていた。 日本の大型ロケットの現行機種H-ⅡAからは約20年ぶり、その前のH-Ⅱからは約30年ぶりの新機種なので、自分としても楽しみに見ていた。 結果としては1段目メインエンジンのLE-9の推力立ち上がり後に固体ロケットブースターSRB-3への点火信号を送らず、離昇せずにアボートに入った。打ち上げ時期を変更して次回の打上げを目指すようだ。 中止か失敗か?共同通信社や一部の速報で「衛星打ち上げ失敗」

        • ひたすら熱中してたらロケットを作っていた話

          県立浦和高校の校内紙である麗和に寄稿した文章の転載(1200字)  稲川貴大(高57回)インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役社長 タイトル:ひたすら熱中してたらロケットを作っていた話 浦高時代に工芸部に入り、授業そっちのけで木工に熱中した。そこで「ものづくり沼」にハマった。人生捧げようと思うほどの達成感、それに至るまでの厳しい修行のような日々。傍から見たら狂気かもしれない。当時作った椅子はインターハイ相当の展覧会に出せた。進路を考えたときに漠然と、なにか面白い

          • 韓国の新型ロケット「ヌリ」がちゃんとスゴイ件

            2022年6月に2号機で初めて打上げ成功した韓国の新型ロケット、「ヌリ」(計画名:KSLV-2)について、ネット上や報道だと下に見ている雰囲気を感じた。自分の認識は全く違って、素晴らしいロケットが出来ていると思っている。 韓国は最新トレンドを捉えた合理的で高レベルのロケット開発を成功させている。この事実は広く知られるべきだと思う。 一般的な概要については下記リンクを参考にして欲しい。ここでは私のようなロケット技術者からヌリがどう見えているかを書く。 経緯 韓国は政府が宇

            宇宙ゴミに関してロケット開発側から思うこと

            宇宙ゴミ(宇宙デブリ、スペースデブリとも言う)についてよく聞かれるのでnoteでも2022年の1月につぶやいていた内容を転載しておく。 宇宙ゴミ(スペースデブリ)は、正確な事実を元に役割の別を明確に認識された上で意見貰いたい。実は役割としては助ける側なのに、全く理解なく雰囲気で批判されるので困っている。本当に困っている。 口頭で説明すると簡単にでも10分ぐらい早口で話すのだが、ここでは端的に書く。 国別・原因別のデブリの数 まず、国別・原因別のデブリの数。(2017年な

            再使用ロケットの1段目戦略(論文紹介)

            これまで、再使用ロケットについて記事を書いてきた。国内だけでも再使用ロケットは手を動かし着実に進めている人もいれば、懐疑派(自分がそうだ)もいる。 宇宙開発プロ&ファンでも再使用ロケットについて、NASAが大好きで盲目的にSpace Shuttleを推す人は少なくなったが、SpaceXが大好きで盲目的にFalcon9やStarshipを推す人は多い(自分も半分はそうだ)。 再使用ロケットの議論が複雑なのは、論点がゴチャゴチャだからだと思っている。 技術論:そもそも技術的に可

            ロケット打上げと緯度の話

            ロケット射場は赤道近くが良いだろうと信じている人は多い。実際にそうなのだろうか? 結論:目的の軌道(目的地)による ロケット打上げには人工衛星ごとの目的地がある。 宇宙空間では特定の1点に留まることは出来ない。したがって地球周辺であれば地球周回軌道というところで運動し続ける。 射場緯度の有利不利はこの目的の軌道に依存する。 静止軌道と地球低軌道静止軌道という軌道は赤道直上の高度約3.6万kmにある。日本上空にいれば、ずっと日本上空に見える極めて特殊な軌道。この静止軌道は気

            再使用ロケットの経済性

            最近、世界中で再使用ロケット開発の機運が高まっている。再使用ロケット、つまり打ち上げた後に着陸・回収して繰り返し使うロケットのことだ。 これはSDGsの文脈が強くなってきたことに加え、SpaceXやBlue Originのロケットの派手な演出のためだろう。SpaceXのロケットの着陸する姿は多くの人を興奮させた。 ちなみに、スペースシャトルも1980年代には開発された再使用ロケットなのだが、色々あって再使用しても全く経済的で無かったので、最近では再使用ロケット枠に入れられ

            DIYで家の外壁を塗ったらエネルギー問題解決まで妄想が飛んだ話

            GW中は家の外壁を塗った。 現在、築40年ほどの借家で暮らししている。築40年「ほど」、と曖昧なのは何年経ってるのか誰も覚えてないからである。お隣に住む前の家主さんに築何年か聞いてみたところ覚えてなかった(ご自身の年齢など細かな事も覚えてらっしゃ無いおおらかな好々爺である)。近所の50代の方の話では子供の頃に遊びに行ってたとのことで「築40年ほど」となる。 もともと壊すつもりだった家を借りてるので何でも好きにして良いと大家さんに言われてた。 木造の家の耐用年数が30年ほ

            TENGAロケットはじまりの話

            2019年7月、TENGA社の松本社長と初めて北海道大樹町で会った。ロケット打上げ前夜祭という関係者限定の小さなパーティで、打上げ見学のためにTENGA社の数名で来てくれたのだ。ロケット打上げ準備は現場の皆に任せて自分は社長として来客歓待の役割をしていた。 松本社長から最初に言われた言葉を覚えている。 「宇宙用TENGAを作りたいんだ」 挨拶もそこそこの一言目に何を言っているんだと思ったが、これ以上なく夢が広がる言葉だった。 TENGAロケットの企画はじまり記者会見で

            近未来のロケットは都市ガスで飛ぶ

            性能が良く、環境に優しく、安く、将来は月でも火星でも使えるロケット。近未来のロケットの燃料は都市ガスである。 都市ガス? 家のコンロをひねれば出てくるガスは都市ガスとプロパンガス(LPガス)に分かれていて、化学物質が違う。都市ガスは天然ガスとも呼ばれ、物質としてはメタン、化学式ではCH4である。ロケットの燃料としては少し高くて純度の高い純メタンと不純物が混ざっているLNG:液化天然ガスの両方がある。 ロケットの燃料?ロケットは作用反作用の法則で自分の持っている燃料(推進剤

            宇宙開発のゲームチェンジ・メガコンステレーション・宇宙太陽発電衛星

            ロケットをプラットフォームとした独占化・排他化が今後の民間宇宙開発のキーワードになる(たぶん)。 現在、純粋な民間事業での宇宙開発が進んでいる。中でも、動きがダイナミックなのが、メガコンステレーションと呼ばれている衛星インターネットである。 引用:https://www.businessinsider.com/spacex-starlink-satellite-ufo-terminals-how-network-works-2020-1 ロケットは輸送業ロケット屋さんは

            宇宙技術の標準規格

            「ISO準拠!」なんかすごそう、なんだかわからないけど! と言ったときのISO(アイエスオー)は、多くはISO9001規格を指している。これは国際標準化機構(ISO)が決めている規格である。ISO9001という文章番号の規格に品質マネジメントについて書かれている。規格を守り認定団体に監査されてはじめて品質管理を守っていると名乗れる。内部統制改善とブランディングのためにアピールする会社は多い。 よく見る「ISO」はISO9001(品質マネジメント)やISO14001(環境マ

            110億円調達の米国ロケットベンチャー企業Vector Launchの破産はナゼ?

            2019年12月Vector Launch Inc.という超小型ロケットを開発する米国のスタートアップ企業が破産した。 正確には米連邦破産法の第11条なので再建型な手続きであり、事業再開する可能性はある。同社は2016年創業で、crunchbaseによると$102.8M(日本円で110億円ほど)の資金調達が報道されていたので破産は話題になっている。 破産の経緯は、世界最大のベンチャーキャピタルのSequoia Capitalが8月に資金を引き上げたことがトリガーになったと

            SpaceXのロケットが安い理由は再使用ではない、という話

            結論:安いロケットエンジンを持っているからである。 SpaceXのFalcon1(退役済み)やFalcon9に使われているMerlinエンジンはRP-1(灯油に似た燃料)と液体酸素(LOX)を推進剤にしたロケットエンジン。A~Dとバージョンがあり、推力は34〜62トン重と2倍近くも差があるエンジンであるが、価格はおよそ1億円だと噂されている。極めて安い。 エンジンだけではなく全体で低コストの方法が取られているが、2002年創業のSpaceXはNASA等の技術をうまく活用して

            ロケットの自律飛行安全の話

            ロケットは自爆装置がついている。 もしくはこれ以上飛んでいかないような仕掛けが組み込まれている。モデルロケットではなく本格的なロケットに限るが、想定外の場所に飛んでいくと大事故に繋がるので、事故防止のために厳重に入念に丹念に慎重に安全装置として飛行中断する機能が組み込まれている。 そういう飛行中断機能も含めて周りの安全を守ってあげることは政府の目も入れる必要があるので(一定のところから)許認可事項になっている。日本語だと飛行安全とか地上安全という専門用語になる。打上げ安全