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光格子時計の可能性

2023年7月7日、埼玉県和光市にある理化学研究所の光格子時計を研究されている香取研究室に訪問させてもらった。
光格子時計の概要は下記URLが詳しい。

世界最高性能の時計である光格子時計。
18桁精度(300億年に1秒のずれ)をもつ。これまでの原子時計の15桁から3桁の精度向上。
現在はセシウム原子時計で秒が定義されているが、2030年頃には光格子時計が秒の定義になるかもしれない。

基本原理は原子のバンドギャップ由来の電磁波の周波数を計測する。そういう大雑把な意味では原子時計と同じ原理。
原子時計と違うのは光格子にトラップされた各原子がそれぞれ光(電磁波)を出すので、数千数万の周波数を同時に大量に計測したのと同じになり、中心極限定理的に精度の高い時計となる。
工夫としては、選ぶ原子やレーザー周波数、レーザー冷却なども重要とのことだった。

応用

これだけ時計精度が良くなると高度計にもなる。
高度計になる原理としては、例えばSFの話でいうと映画「インターステラー」でブラックホールに何度も近づいたせいで地球に住む人と時間のズレが起きるようなことである。
光格子時計だと最大分解能として1cmの重力差まで計測できる。
既にスカイツリーと地表での時間差計測の実験もされている。

高度計だけではなく、重要なのは相対性理論で考えて重力や速度によって時間が歪むということなので、重力ポテンシャル計、相対速度計としての可能性がある。
既に欧州だと各国に光格子時計レベルの高精度時計があり、各国の標高定義ズレを修正するなど成果があるらしい。

香取先生曰く「今は量子論の応用が流行っているが、今後は相対論の応用がくる、光格子時計は相対論のための基本的なセンサ」
的なことを発言されていたのが印象的だった。

光格子時計の宇宙適応

現時点でも光格子時計は200L、200kg程度。300W程度であり、衛星ペイロードとしては可能な範囲だが、まだ若干重い印象(GPS用原子時計よりもだいぶ大きい)
一方で、衛星用にまとめれば小型化であればできそうな印象も持った。

現時点で思いつく宇宙応用可能性は
正確な時刻がわかることによる測位衛星の時計、もしくは軌道決定センサ補助として考えられる。

新しい測位衛星

現在のGPS/GNSSシステムも補強信号(みちびき衛星など)やRTKなどの技術の進化でm単位やサブメートル単位まで精度が向上している。
現在の原子時計から光格子時計に変わることで時刻精度が上がるだけでは、対流圏誤差やマルチパス誤差は除けない。GPSの精度の10m精度が1~5m程度に良くなる程度。

単に原子時計から光格子時計にコンポーネントを変更するだけではなく、全く新しい測位システムが必要だとは思う。
GPSはその原理から、衛星の自分の位置速度と時刻を放送(衛星から片方向通信)しているだけである。
この辺は今後、様々な工夫や付加価値つけるようなことが必要。

DAOとして国家に依存しない測位システム

一緒に行った堀江さんがポロッと言ってた測位衛星のDAO:Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)も面白いと思った。実際のハードルは低くないが。

DAOで管理された測位衛星を新しく飛ばし、地上側で測位(自分の位置を知る)する度にユーティリティトークンを消費。
ガバナンストークンの保有者は測位衛星計画や仕様決定にも参加。
トークンによる資産が一定程度貯まる毎に衛星増えたり仕様Updateする。
ガバナンストークン保有者はユーティリティトークンの使用量によって株式的に売上が配分される。
課題としては、現在のGPS/GNSSシステムが既にインフラとして動いている中、別の測位システムを使いたいニーズがどこまであるか。
一方で、民間主体の他天体開発の時代が来れば、月面や他天体の測位システムはDAO的なものが適している予感がある。

参考

香取研HP

以下、参考になったネット上の資料。

https://shingi.jst.go.jp/pdf/2015/kisoken104.pdf

https://www.cps-jp.org/~mosir/pub/2022/2022-03-01/01_takamoto/pub-web/01_takamoto.pdf

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