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逃走生活

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夫の暴力からの逃れての逃走生活にまつわるエッセイ。受けた傷から回復していくこと、どうしようもない心の動きのこと。
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#アルコール依存症

目を閉じて暗闇で跳ぶような

目を閉じて暗闇で跳ぶような

 自分の人生を左右する大きな決断をするのは、とても怖いことだ。それは目を閉じて暗闇で跳ぶようなことに思える。足を踏み入れる先がどのような場所なのかは跳んでみるまでは分からないのだ。
 夫との離婚の意志を固めるのは私にとってひどく怖いことだった。夫の抱える様々な問題が明らかになってからも、決断までには長い時間が必要だった。

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 初めて「離婚」という選択肢を意識させられたのは結婚してたっ

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どうしてカウンセリングを受けるのか?

どうしてカウンセリングを受けるのか?

 家族の問題を抱えるようになって、1年以上カウンセリングを受け続けている。2週間に1度、ベテランの女性カウンセラーと話をすることは、私を穏やかに支え、そして大きな決断をして前進することを後押ししてくれる。

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 そもそもカウンセリングを受けるようになったきっかけは夫の主治医の勧めだった。
 夫が家庭内に大嵐を起こしながらアルコール依存症で入院し、私はこれからの生活に対する不安感や恐怖心

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困ることのエネルギー

困ることのエネルギー

「彼は今の状況に困っていません」

 夫の主治医から聞いたこのフレーズは私にとって実に衝撃的なものだった。
 この台詞を聞かされた時点で、夫はアルコールや精神安定剤にひどく依存しており、心と身体のコントロールを完全に失っている状況だった。仕事をすることもできなくなり、度々の暴力や暴言によって家族の信頼関係もすっかり崩壊していた。
 困っていないはずなんてない。いや、むしろ絶体絶命といっても良い。そ

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「一人で何でもできる」はもうやめよう

「一人で何でもできる」はもうやめよう

 「一人で何でもできる自分」が好きだった。

 就職して一人暮らしを初めてから、私は自分のペースで何でも一人でできることのすがすがしさに夢中になった。自分の好きなもので部屋を構成し、好きな時間に食事をし、好きなように眠ることの快適さと言ったらなかった。
 快適な生活を守るために、私の「一人でできること」はぐんぐん増えていった。
 スピーカーの配線をすること。組み立て式の大きな棚を買い、自ら抱えて持

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心はまるでたけのこのように

心はまるでたけのこのように

 どうしてもそうしなくてはならないと思ってたけのこご飯を炊いた。幼い頃から春になると必ず食べていた季節の味だが、今年は少しばかり思い入れが違うのだ。

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 夫のアルコール依存症と暴力を発端とした別居生活が始まってから半年ほどが過ぎた。私達夫婦が今後どうしていくべきかという決定的な選択をすることを私はずっ

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依存症恐怖症

 「依存症」が怖くてたまらない。

 時折、会社帰りにふと思うことがある。今日は疲れたからお酒でも買ってみようかな。しかし、売り場に立って考え込んでしまう。今日の一杯が明日の二杯になり、やがて歯止めがきかなくなる日がくるかもしれない。
 私はそそくさと売り場を離れる。

 新しい春物の服を買いたいなと思って百貨店に出向く。ここでも私はふいに怖くなる。「買い物依存症」という単語が頭をよぎるのだ。
 

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