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EVメーカーの Lucid MotorsがSPAC上場に合意。SPAC過去最大の案件に

Tesla(テスラ)の元チーフエンジニアのPeter Rawlinson(ピーター・ローリンソン)氏が率いるLucid Motors(ルーシッド・モーターズ)がSPACを通じて上場することを公表しました。

上場後の時価総額は240億ドルとなり、United Wholesale Mortgageが行った160億ドルの合併を超えてSPAC史上最大のSPAC上場になります。

合併するSPACは、Churchill Capital Corp IV (CCIV)という2019年6月にニューヨーク証券取引所に上場したSPACになります。CCIVは上場を通じて18億ドルを調達しています。

日本でも販売開始しているFisker(フィスカー)、SPAC上場後に技術の粉飾疑惑などが起こったNicola(ニコラ)や、本記事でも取り上げたCanno(カノー)など、EVメーカーのSPAC上場は昨年来より急増していますが、テスラ立ち上げ期を支えた元幹部が集まっているLucid Motorsは、その中でも注目度が高いSPAC上場になります。

イーロン・マスク氏も警戒するLucid Motors

Lucid Motorsはテスラの上級副社長をつとめ、テスラのバッテリー部門の立ち上げを先導したBernard Tse(バーナード・ツェ)氏が2007年に立ち上げた会社です。もともと車載バッテリーの開発会社として創業し、その後2016年にEV開発に参入すると発表し、2021年内に市販モデルの発売が予定されています。

年内発売の市販モデル「ルーシッド・エア」は車体価格は最も安いモデルで6万9900ドルで予定されているプレミアムセダンです。パワートレインは480馬力で、1回の充電で走れる走行距離は653 kmとされています。

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テスラの高級ラインのモデルSが走行距離644kmで500馬力以上、価格は6万9420ドルということですから、テスラとほぼ互角のモデルとなりそうです。

テスラのモデルSは以前、7万1990ドルだったのですが、ルーシッドの車両価格の発表に前後して、マスク氏はツイッターで現在の6万9420ドルに値下げすることを発表しており、マスク氏もルーシッドを意識していることが伺えます。

まだ量産体制が見えていない他のほとんどのEVメーカーとはことなり、テスラの元幹部で構成されるルーシッドは量産体制の垂直立ち上げにも成功しており、アリゾナ州に年間40万台の生産キャパシティを持つ工場を立ち上げています。

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この立ち上げは、アウディやテスラの生産部門の幹部として工場立ち上げに経験豊富なPeter Hochholdinger(ピーター・ホーホルディンガー)が主導し、19年12月からわずか9ヶ月で試験ラインの立ち上げに成功しています。

同社は2019年にサウジアラビアの政府系ファンドから1000億円のバリュエーションで出資を受けているほか、日本勢も関わっており、出資者として三井物産やJAFCOなども名を連ねています。

「アメ車」の逆襲がはじまった 鍵握るEVの新生ルーシッドとは
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00119/022200056/

Churchil Capitalとの合併によりアップルと接近か?

同社の合併先となるCCIVは、シティグループ元幹部で、現在はクレディスイスの社外取締役などをつとめているMichael Klein(マイケル・クレイン)氏が設立したSPACです。2019年にニューヨーク証券取引所に上場し、6億9000万ドルを調達しています。

Churchill Capitalはこれまで6本のSPACを上場させており、CCIVはその4本目のSPACとなります。直近の6本目のSPACであるChurchill Capital VIは2021年2月12日に上場し、4億8000万ドルを調達しています。

◆Churchill Capital Corp I   
2019年1月に論文データベースのClarivate Analyticsと合併
◆Churchill Capital Corp II
2020年11月にEdtechのSkillsoftと合併を公表(未クローズ)
◆Churchill Capital Corp III
2020年10月にヘルスケアテックのMultiplanと合併
◆Churchill Capital Corp IV
2019年9月に上場し18億ドル調達。Lucid Motorsとの合併を公表
◆Churchill Capital Corp V
2020年7月に上場し4億ドル調達
◆Churchill Capital Corp VI
2021年2月に上場し4億8000万ドル調達

以下が、合併しDe-Spac済みのSPACの直近のパフォーマンスです。

1号ファンドのClarivateは合併後の株価は好調で、成功したSPAC案件だった一方3号ファンドのMultiPlanは合併後の株価は振るわず、上場時株価である10ドルから3割程度減価しています。

Clarivate Analyticsの株価チャート

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MultiPlanの株価チャート

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上記の通り、外している案件もありますが、2019年から活動をはじめ、既にSPACを6本上場させ、複数案件でDe-Spacも完了いるなど、SPAC市場の中でも経験値の高いスポンサーといえます。

Churchil Capital IVとの合併によりアップルと接近か?

 Churchill Capitalは毎回SPAC合併時に運営パートナーを外部から招待しており、今回のCCIVの運営パートナーにはアップル元CDO(最高デザイン責任者)のジョナサン・アイブ氏とフォード・モーター元CEO(最高経営責任者)のアラン・ムラーリー氏を招聘しています。

スティーブ・ジョブズ氏存命時からアップルのプロダクトデザインを主導し、iPodやiPhoneなどのデザインを主導したアイブ氏と、フォード経営再建を主導し、リーマンショックを米自動車メーカーで政府の支援を受けずに乗り切った自動車業界の名経営者であるムラーリー氏のタッグは、ルーシッドを一流の自動車メーカーに育て上げるのに充分な体制のように見えます。

また、2024年〜2025年ころにEVを発売すると憶測されているアップルと近いアイブ氏がパートナーとして入ることにより、アップルと連携してEVを発売するなどのシナリオも考えられます。アップルも自社生産を行わないことを明言しているため、EV組み立て工場を持っている Lucid Motorsは選択肢に入ってくるでしょう。

一方で、車載のボイスコントロールにはAmazonのアレクサを採用予定とのことで、ソフトウェアはAmazon陣営にも入り込んでいるようです。

歴史的な下落を見せたCCIV

Lucid MotorはCCIVとの合併により、CCIVから21億ドルを調達する他、PIPEによりサウジアラビアの政府系ファンドやブラックロック、フィデリティから25億ドル調達し、同社の時価総額は240億ドルにも登るとのことです。

CCIVは合併が発表された23日にかけて株価が急落し、実に半分以下になっています。これは事前にCCIVがEV会社と合併する噂が2月中旬から出ており、憶測買い株価が急騰していたことに起因するものです。

SPACの上場株価は10ドルで、通常、合併先の発表が行われるまでは空箱なので上場価格の10ドル前後をうろつくのですが、合併先の発表が行われる前から株価が55ドルを超える水準までになっていました。

CCIVの株価チャート

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合併後の急落はある意味、憶測で過熱感を持っていたのが現実に引き戻された、ということだと思いますが、おそらく今回のディールにおいて、240億ドルという高いバリュエーションと、PIPEの金額が大きいため希薄化を嫌気がされたものと思います。

それでも上場株価の10ドルを上回っているので、ある意味市場としては、同社の成功はある程度見込んでいるのだと思います。

SPACという資金調達能力を得て、EV市場はますます戦国時代の様相が見られますが、テスラに続くEVメーカーとしてLucidには期待したいです。

Frontier Financing(フロンティア・ファイナンシング)

本ノートは、SPACやダイレクトリスティングをはじめとした、新しい資金調達の手法に関するニュースや考察などをまとめて記事にしています。

海外では毎日のようにこのようなニュースが出ていますが、日本ではこれらの新しい手法はまだまだ情報は限定的で、未知の部分が少なくありません。

この記事を通じて最新情報や資金調達手法への理解が深まり、将来的には日本でもこれらの手法が広まり、より多様な資金調達の手法をスタートアップや企業が利用できる世界ができればと思っています。

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