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ルイヴィトンCEOが欧州でSPAC設立。SPACの波が欧州・シンガポールへ波及。日本はどう対応するのか?

2020年、米国でIPO資金調達の半分以上がSPACのIPOによるものとなり、SPAC旋風が起こりました。2021年も、2月現在で190のSPACが上場し、資金調達額は、既に昨年の半分にもなっており、勢いは衰えるどころか、加速しています。

その中で、欧州でもSPAC設立の動きがでてきました。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン会長のベルナール・アルノー氏や欧州の有力投資家が中心となり、オランダ・アムステルダム証券取引所でSPAC上場を計画していることがニュースになっています。

日経新聞(2021年2月16日):欧州で買収目的会社 LVMH会長ら近く設立
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69136440W1A210C2EAF000/

この計画の中心的な役割を果たすのが、フランスのEuronext市場に上場する有力オルタナティブ投資運用会社Tikehau Capital(ティケオー・キャピタル)です。

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同社のプレスリリースによると、この計画は、ティケオーキャピタルの他、アルノー氏の資産管理会社のFinancière Agache(フィナンシエ・アガシュ)の他、イタリアのウニクレディトの元CEOのJean-Pierre Mustier(ジャンピエール・ムスティエ)氏、ウニクレディトの社外取締役のDiego De Giorgi(ディエゴ・デジョルジ)が主要スポンサーとして参画するとのことです。

合併先のターゲットは、主に資産運用プラットフォーム、フィンテック企業、保険会社(もしくは保険に関連する企業)など、ユニークな顧客プロポジションを持った金融サービス事業者になるとのことです。

上記の4人の投資家は合わせて資金調達額の最低10%を出資し、スポンサーになるとのことで、JPモルガンが上場のアドバイザーをつとめるとのことです。

ロイターによれば、このSPACはオランダのアムステルダム証券取引所に上場されるとのことです。アムステルダム証券取引所は、欧州の中でも最も制度が米国に近く、また現在ではロンドンを追い抜くほどの取引高を見せており、欧州の中心的な資本市場となっているとのことです。

欧州では、昨年12月に投資銀行出身のXavier Niel氏と起業家のMoez-Alexandre Zouari氏がフランスでSPACが上場させており、それが欧州で初めてのSPAC上場例だったとのことです。

しかし、クレディスイス元CEOのTidjane Thiam氏やドイツ銀行の投資銀行部門の元トップのGarth Ritchie氏などがニューヨークでSPAC上場を進めている他、コメルツ銀行元CEOのMartin Blessing氏もオランダでSPAC上場を計画しており、今年に入り欧州でもSPAC上場の波が急速に生まれてきています。

シンガポールもSPACブームに名乗り

欧州でもSPAC上場の動きが出てきていますが、この流れはアジアにも波及しています。2021年2月18日には、シンガポール証券取引所CEOのLoh Boon Chye(ロウ・ブーン・チェイ)氏が、市場環境がよければ年内にSPAC上場を実現させると発表しました。


現在、シンガポール証券取引所は、SPACの上場に関して市場調査を実施しており、その結果がよければ年内にも上場案件を形成する予定とのことです。

シンガポールは2010年にもSPACの上場について検討したことがあり、その当時は市場関係者からのサポートが得られず断念していました。シンガポールでSPAC上場が成功すれば、アジアで初めてのケースになります。

日本ではSPAC上場が起こるか?

このように米国のSPACブームは欧州・アジアに波及していますが、日本でもSPACのような資金調達スキームが制度化されていくのでしょうか?

実は東京証券取引所は過去にSPACの制度化を検討していたことがあります。東京証券取引所の「2008年度上場制度整備の対応について」に基づく上場制度の整備等について 」において、「未公開会社の買収を目的として設立される特別な事業形態の会社の上場について検討を行う」と記載しており、これはSPACを意識したものになっています。

この後、リーマンショックが起こり市場環境が悪化したこともあり、SPAC上場の検討機運はなくなり現在に至っています。

現在のところ、公にSPAC制度を調査したり検討したりしている形跡はありませんが、米国でIPO市場の半分以上を占めるほどになっているSPACについてなにも研究していないと言うことはないと思います。

各国の証券取引所もグローバルで競争しており、より好ましいスキームを提案していかないといけない身であることを考えると、このまま放って置くことはないと思います。

実際、上記の2008年の上場制度整備で検討されていたプロ向け市場は「TOKYO Pro Market」として開始していますので、東京証券取引所の上場制度整備はおよそ2008年に記載された方向に進んでいます。

SPACは、「会社があって上場」から、「上場しておいて後から会社をつける」という逆転の発想を持つスキームであり、資金調達のイノベーションと言えます。今後、様々な課題が出てくることはあるかと思いますが、過去に生まれてきた新しいスキームと同様、過ちを繰り返しながら定着していくのだと思います。

ただし、日本の場合、マザーズ市場によって、比較的小さな成長企業も上場できる道をできているため、米国などと比べるとSPACが入り込む隙は小さそうです。

米国のようなグローバルの投資家が参加し、金の行き場がない成熟市場と比べると、日本はそこまで成熟はしていないため、制度としては作られるものの、SPACに流れ込む金は限定的なのではないでしょうか。

Frontier Financing(フロンティア・ファイナンシング)

本ノートは、SPACやダイレクトリスティングをはじめとした、新しい資金調達の手法に関するニュースや考察などをまとめて記事にしています。

海外では毎日のようにこのようなニュースが出ていますが、日本ではこれらの新しい手法はまだまだ情報は限定的で、未知の部分が少なくありません。

この記事を通じて最新情報や資金調達手法への理解が深まり、将来的には日本でもこれらの手法が広まり、より多様な資金調達の手法をスタートアップや企業が利用できる世界ができればと思っています。

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