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上場SPACの株価のいま:SPAC投資家はリターンを得られているのか?

昨年より、SPACを通じた上場が米国の株式市場を賑わせていますが、果たして上場後にSPACがどれだけリターンを出せているのか、いまいち情報が少なくありませんか?

IPOの世界でも「上場ゴール」といわれ、鳴り物入りで上場した挙句、その後上場時の株価を上回ったことがない企業が見られます。せっかくIPO株を運良く割り当てられても、ずっと塩漬けになったまま、発酵して美味しくなるのをひたすら待つといった感じになります。日本でも一時期、「上場ゴール三銃士」と揶揄された会社がありましたね。

SPACもここ最近注目された上場方法なので、鳴り物入りでSPAC上場したとして、結局鳴かず飛ばずな銘柄ばっかりなんじゃないか、という懸念を持っている方もいらっしゃるのではないかと思います。

では、SPAC上場銘柄は儲かっているのか

まずは一番わかりやすい方法として、インデックスを追ってみましょう。

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上記は、SPAC銘柄を組み込んだインデックスETFのパフォーマンスです。2020年12月16日にスタートしたので1ヶ月くらいしか実績がありませんが、この1ヶ月でも20%超上昇しています。

また、IPOXという会社が「IPOX SPAC」というインデックスを2020年7月頃から出しているので、こちらで比較してみましょう。

比較対象としては、SPAC銘柄のインデックスである「IPOX SPAC Index」と、米国IPO株をまとめた「Renaissance U.S. IPO Index」と、米国株市場を代表する「S&P 500 Index」を使用しました。

結果は以下の通りです。

         SPAC Index         IPO Index              S&P500
・2021年YTD:          7.75%              7.32%                    1.21%
・2020年:                 46.52%   50.07%                  16.12%

※計測期間
2020年:SPAC Indexが開始した7月30日〜12月31日までのパフォーマンス
2021年:SPAC Indexは1月1日〜1月18日、IPO&S&P500は1月19日迄

SPACはS&P500は余裕で超えて、IPO銘柄とほぼ拮抗するリターンを叩き出しています。

ハイリスク・ハイリターンなSPACが、伝統的な企業も含まれるS&P500を上回るのは予想できました。しかし、SPACが自力でIPOできない企業の上場ルートとしても「裏口上場」とも揶揄されている中で、正当に上場審査プロセスを経たIPO企業群に匹敵するというのは驚きです。

とはいえ、SPAC Indexの実測期間はまだ1年にもみたず、この期間はSPACバブルとも言われるほどに資金が流入しているので、長期的にどうなるかは要注意ではあります。

ただ、SPACは実際のところ、TPGやPIMCO、ビル・アッククマンなど、投資業界でも知名度があり、十分に目利きができる投資家が上場させているケースが多く、彼らの投資手腕を持ってすれば、上場審査を経ていなくてもそれなりに事業性のある企業を発掘し、育ていることができる、ということなのかもしれません。

アカデミックの見解は儲からない?

一方で、アカデミックの世界では「SPACは儲からない」という論文が発表されています。論文著者は年頭にWall Street Journalで「SPACバブルは破裂する可能性がある」と警鐘を鳴らしています。

スタンフォード大学ロースクールのMichael Klausner教授と、ニューヨーク大学ロースクールのMichael Ohlrogge助教授、スタンフォード大学のEmily Ruan氏の共著の「A Sober Look at SPACs」を2020年11月に発表しました。

この論文では、2019年1月から2020年6月に企業買収を実施した比較的新しいSPAC上場の事例47を取り上げ、そのパフォーマンスの評価と、SPACの上場前後のエコノミクスを踏まえると、SPACに資金を投じた投資家が損失を被る仕組みと結論づけています。

SPACは何もない投資目的会社の箱を上場させ資金を集め、一定期間の間に合併先を探して、合併することで箱の中に企業を入れて、その後の企業運営で時価総額をあげて投資家にリターンを提供していくスキームです。

SPACは、SPAC設立者に対する報酬や、合併前から出資していた投資家に対して償還など様々なコストが発生し、そしてさらに合併時にワラントなどを行うため、大幅に希薄化が進み、結果的に上場前に集めた資金の約半分が合併時に失われてしまうとのことです。

ということは、たとえSPACで10億円集めたとしても、5億円程度の価値のある会社しか買えず、合併時にマイナススタートしてしまうということです。そこで損失を被るのは、SPAC設立者でもなく、合併対象企業でもなく、SPAC投資家のみということです。

もちろんポテンシャルの高い企業であれば、成長して5億円から10億円、20億円、・・億円と成長してリターンを供給し続けることができるのですが、それならもっとコストが安くて、投資先が明確で投資家が納得した上で帰る、IPOやダイレクトリスティングなどを使ったほうがいいんじゃない?というのが論文の問題提起です。

論文の詳細については今度別記事で詳細に分析しようと思います。この論文については、少し読みにくいですが、以下の記事にもまとめられています。

空前の上場ブームに沸くSPAC、実際のリターンは期待はずれhttps://forbesjapan.com/articles/detail/39402

インデックスを見る限り、何年か投資を続ければマイナスを補えるレベルのリターンがでるのではないかと思えます。しかし、論文が指摘する通り、IPOよりコスト高なのにリターンが同レベルであれば、「だったらIPOのほうがいいじゃん」という点についての回答はまだSPACは出せていないようです。

とはいえSPACはまだこれから議論され、成熟していくスキームなので、今後より魅力的な投資スキームになっていくことを期待しています。

Frontier Financing(フロンティア・ファイナンシング)

本ノートは、SPACやダイレクトリスティングをはじめとした、新しい資金調達の手法に関するニュースや考察などをまとめて記事にしています。

海外では毎日のようにこのようなニュースが出ていますが、日本ではこれらの新しい手法はまだまだ情報は限定的で、未知の部分が少なくありません。

この記事を通じて最新情報や資金調達手法への理解が深まり、将来的には日本でもこれらの手法が広まり、より多様な資金調達の手法をスタートアップや企業が利用できる世界ができればと思っています。

アクセス数の多い記事はこちら

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e航空機のArcher AviationがSPACを通じて上場へhttps://note.com/ikujidaddy/n/n46317162fa64

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