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SPAC上場企業は株式市場で生き残れるか?

昨年来より米国のIPO市場でSPACが大きな注目を浴びていますが、SPACがまだまだ未成熟な投資ビークルであり、SPACブームに対するリスクの懸念も高まっています。

米国のテック系ニュースメディアのThe Informationの1/29の記事では、SPACのリスクに対して警鐘を鳴らしています。

As SPACs Search for Merger Candidates, Risks for Investors Grow
https://cutt.ly/gkzrxvn

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同記事ではSPAC上場した、e-Sportsのスタートアップ「Allied Esports」とEVメーカーの「Canoo」の2社を例にあげて、SPACのリスクを指摘しています。

2019年にSPACを通じて上場したAllied Esportsは、株価が上場前の10ドルから、1.94ドルまで落ち込んでいるとのこと。同社はコロナで大規模なe-Sportsイベントが開催できなくなった影響を受けたため2020年の決算に大きな影響を受けているとのことです。

しかし、そもそも同社の2018年の通期の売上は20.4百万ドルしかなく、通常のIPOのルートでは相手にもされない企業規模だったとのことです。結果的に2020年11月に「継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)」の疑義をつけられました。

同社、今年1月に入り、運営するブランドであるWorld Poker Tourを78.2百万ドルで売却することを発表し、e-sport部門も売却することを検討しているそうです。

同社はコロナ禍という外部的な要因もあるものの、この例はリスクを十分に吸収できる体力がない規模の小さな企業が公開会社になると、かえって投資家に損失を与えてしまう可能性があることがわかります。

売上なしで上場

EVスタートアップのCannoのケースはさらに特徴的です。同社は2020年12月のSPACを通じて上場し、現在3億6千万ドルの時価総額になっています。しかし、同社は未だプロトタイプしか作っておらず、商業生産のEVの発売は来年中旬を予定しています。

Cannoの時価総額は実に30億ドルを売り上げを持つマツダとほぼ同じ時価総額です。一方、同社は売上はゼロです。株主向けのプレゼンテーションで記載される情報は全て予測(Projection)しかなく、将来の期待だけでマツダと同じ時価総額をつけているのです。

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このような研究開発型のスタートアップは伝統的にはVCから資金を調達し、プロダクトの開発を進め、ある程度プロダクトと売上が見えたところで上場します。しかし、Cannoのケースでは完全にコンセプト段階での上場です。

このような企業がはたして上場後にきちんと商業ベースでの生産を進め、投資家に適切なリターンを返し続けられるのでしょうか?

通常のIPOのプロセスでは、ロードショーでの機関投資家へのピッチの段階でこのような案件はおそらく相手にされず、投資銀行も上場プロセスに進めようとしないでしょう。

SPAC上場した企業の未来

SPAC上場は、EVのような急成長する領域や、これまではレイトステージのVCの投資先となっていたような中堅企業には、引き続き好まれる資金調達の方法になりそうです。

しかし、このようなSPAC上場した企業の将来に2つのポイントで、同記事は警鐘を鳴らしています。

ひとつめは、このような中堅企業は上場したとしても流通時価総額が低いため、機関投資家の投資対象にならずに放置されてしまう可能性があることです。機関投資家は株式の売買に一定ロットを求めるため、ロットが小さい案件は避ける傾向にあります。

ふたつめは、時価総額400百万ドル以下の時価総額の会社は、ウォール・ストリートの株式アナリストがカバーしないことが多いことです。アナリストによって会社の詳細な分析が行われないため、会社が投資家の目に触れずに終わり、「知る人ぞ知る」案件となってしまう可能性があります。

これらの要因で、結果的に機関投資家をはじめとした市場で力を持っている投資家が投資が避け、株価が思ったほど上昇しないという可能性があるとのことです。

上記の記事が示唆する通り、SPAC上場企業が株式市場で生き残っていくには、多くのハードルがありそうです。200もあるSPACが今後、良い合併先の探索で競争が激化する中で、不良な案件をつかんでしまい投資家に損をさせるケースは増えてくるでしょう。

またSPACはVCとも競合関係にあり、今後VCの巻き返しも想定されます。VCとの競争関係については以下の記事で別にまとめていますが、競争環境は激化することが見えています。

一方、SPAC運営者の多くはこれまでもPE業界などで激しい競争を乗り越えてきた投資家たちです。海千山千のこの業界のプロである彼らが、今後起こるであろう荒波でうまくボートを乗りこなす可能性もあります。

SPACの合併先は、これらのファンドマネージャーとSPACを通じて一蓮托生になるわけです。SPACへの投資を考える時は、合併先企業の経営能力だけでなく合併元のSPAC運営者の経験やスキル、トラックレコードも合わせて見極めることが必要そうです。

SPACとVCは共存できるか?
https://note.com/ikujidaddy/n/n6dab1a3fa4e8

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