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劇作家 如月小春さんが教えてくれたこと

学生時代、如月小春(きさらぎこはる)さんの講義を受ける機会に恵まれた。私は専攻は演劇ではなかったのだけど、専攻問わず誰でも希望者は受けてもいい講演会が時々あり、そのなかの一つである如月さんのお話を聴きに行った。
如月さんは私たちにはっきりと言った。

「人が生きていくのに、芸術が必要なんです。」

若かった私に、この言葉は刺さった。
如月さんは「もう一度言います。」と言い、「いいですか。人が生きていくのに、芸術が、必要なんです。」と、学生がまばらに座ったホールを見渡しながら、さらにゆっくりと力を込めて言った。

芸術とスポーツにお金をかけない、芸術家の地位は低く見られがちな日本について、如月さんは語った。細かい話は忘れた。とにかく私の心に残ったのは、芸術は人として生きていくうえで必要不可欠なものだ、ということ。

その後しばらくして、如月さん原作の「ロミオとフリージアのある食卓」という劇を、地下にある小劇場に観に行った。
人形のように人が運ばれてきて舞台に立たされ、そこから話が展開し、最後にはまた人が人形のようになり運び出されていく。見たことのない不思議な世界。涙が出るほどの感動なんてなかった。ただ、なんだろう、この世界はという静かな驚き。その引っかかりが心に残った。私の知らない部分に触れていったような。私が演劇に出会った最初の作品だ。

卒業してからも、TVで如月さんが出てると必ず観たし、エッセイも読んだ。だからまだ40代の若さで亡くなってしまったと知ったときはとてもショックだった。

私に大切なことを教えてくれた人、如月小春。
あなたの言ってたことは間違いじゃない。
何度となく心の中でくり返し、刻みこんできた言葉。
歳を取れば取るほど、その意味がわかる。
あなたの言葉を次の世代へ、息子へ引き継いできた。
芸術は何も高尚なものじゃない。
私たちのすぐ身近にあるもの。小さな創作。
彼が子どものときから、はたから見たら一見なんの意味もないようなことをしているときも止めなかったし、むしろ推奨してきた。そこに意味があるのを知っていたから。
そして今、彼自身のために彼が歌う歌を聴き、私が救われ、豊かになる。

魂とは何かなんて考えたこともないほど若かったあのときに、あの講義を受けることができて、ほんとうによかったと、つくづく思う。




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