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映画レビュー『サマー・オブ・ソウル(あるいは革命がテレビで放映されなかった時)』(2021)魂(ソウル)を解放せよ!

幻のフェス、50年の時を経て復活!

’69年、アメリカのニューヨークで開催された
『ウッドストック・フェスティバル』は、
今でも語り継がれる
伝説のロック・フェスティバルです。

8月15日~17日の3日間にわたって開催された
このフェスには、
ジミ・ヘンドリックス、ザ・フー、
クロスビー・スティルス&ナッシュ、
ジャニス・ジョプリンなどが出演し、
40万人以上の観客が詰めかけました。

時を同じくして、ウッドストックから
160キロ離れた場所で、
もう一つの伝説的フェスティバルが
開催されていました。

『ハーレム・カルチャラル・フェスティバル』です。

全米から集まった
多くの黒人アーティストが出演した
このフェスには、黒人を中心とする聴衆、
約30万人が集まりました。

しかし、このフェスは、
記録映像が残っていながら、
それが一般に公開されることはなかったのです。

実際に会場を訪れた人の
記憶の中だけに残り続ける
「幻のフェス」と化していました。

その「幻のフェス」が、
このたび50年の時を経て、
ドキュメンタリー映画として復活したのです。

当時の黒人たちが置かれた境遇

近年でも、アメリカから
人種差別はなくなっておらず、
痛ましい事件のニュースが、
後を絶ちません。

しかし、’69年という時代は、
今よりもさらに深刻な黒人差別がありました。

社会的に抑圧され、貧困化し、
暴動が起こったり、
ドラッグが横行する事態にまで
問題は深刻化していたのです。

そんな時に黒人たちの心に
寄り添ってくれたのが、
同胞の黒人アーティストが奏でる
ゴスペル、ブルース、ジャズ、
ソウルミュージックでした。

この映画の中では、
当時、観客として訪れていた方の
インタビューも多く収められています。

その中では、
「このフェスティバルは、
 黒人の暴動を止めるためのもの
 だったのかもしれない」
と証言する方もいました。

何よりもこの映像から
強く伝わってくるのは、
すさまじいほどの会場の熱気、
熱烈なまでの観客の歓喜です。

ステージでは、多種多様な音楽が披露され、
それを観る観客たちのファッションも
混沌としています。

見た目はバラバラにもかかわらず、
会場に集まった人たちの一体感は
「家族」を連想させるでしょう。

自分のソウルを解放できる

このフェスでは、
本当にいろんなジャンルの音楽が
披露されていました。

当時、ポップチャートを席巻していた
モータウンはもちろんのこと、
黒人音楽のルーツともいえる
ブルース、ゴスペル、
アフリカ音楽、ラテン系、
ジャズ、ポップスなどなど、
黒人音楽のすそ野の広さが感じられます。

映画の中でのトップバッターは、
スティーヴィー・ワンダーです。

当時のスティーヴィーは、19歳ですが、
11歳でデビューした、
この盲目のシンガーのパフォーマンスは、
すでにベテランの域に達しています。

キーボードと歌だけではなく、
ドラムまで披露していたのが
圧巻でしたね。

B.B.キング、ニーナ・シモン、
ステイプル・シンガーズ、
マヘリア・ジャクソン
といったレジェンドたちの
パワフルなパフォーマンスにも
心を震わせられました。

多くの魅力的なアーティストの中でも、
スライ&ザ・ファミリー・ストーンの
演奏は当時の時代性を
もっとも強く表していた気がします。
(彼らは『ウッドストック』にも出演していた)

メンバーに白人も女性も含む、
大所帯バンドならではの爆音には
度肝を抜かれました。

私自身は彼ら、黒人アーティストの音源を
20代の中盤から聴きはじめ、
30代後半になった今でも
よく聴く音楽になっています。

作品の背景を知る中で、
当時の黒人たちの境遇も
少しずつ知っていったのですが、
本作を通じて、
その理解は一段と深いものになりました。

そして、この映画を観て、
私が黒人音楽に、
強く共感する理由が、
はじめてわかったのです。

これまでは、私が黒人音楽が好きなのは、
音楽にのめり込むきっかけが
ダンスミュージックだったからだと思っていました。

それも間違いではないのですが、
もっと、根本的に心に刺さる
原因があったんですよね。

それは私自身も黒人と同じ、
マイノリティーだからです。

彼らと話す言葉や肌の色は違いますが、
置かれている境遇には近いものを感じます。

だからこそ、黒人の音楽を聴いていると、
深く共鳴してしまうのです。

なんだか周りと合わせるのが大変だ、
現実の世界を窮屈に感じる、
そんな方はぜひ、このフェスの映像を観て、
ソウルを解放してみてください。

黒人音楽の根底に流れる不屈の精神が
きっとあなたのソウル
震わせてくれるでしょう。


【作品情報】
2021年8月27日公開
監督:アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演:スティーヴィー・ワンダー
   ニーナ・シモン
   スライ&ザ・ファミリー・ストーン
配給:サーチライト・ピクチャーズ
   Hulu
上映時間:117分

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