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バイビー。

僕が書いたエッセイを読み終えた友人が、テーブルにスマホを置いてホットコーヒーを一口含んだ。


「うん。いいじゃん。読みやすくて面白かったよ」


ここ数年間、ほぼ毎日文章を書いてきて分かったことがある。


上手いか否かは別として、1000字前後のエッセイだったら人を楽しませることができる。


その力が僕にはある。


「でも、そんなんじゃダメなんだよな」


「へー、こんなんじゃダメなんだ」



僕の発した言葉は咀嚼されず、ほぼ原文ママで打ち返された。


「誰も俺の日常には興味がないから」


「面白かったけど」


「面白いだけじゃダメなんだよ文章なんてもんは。何を書くかじゃなくて誰が書くかだからさ」



「へー」


ミラノサンドは朝が似合う。お昼以降に食べるのは気が引けて、僕は和栗のモンブランを注文した。


「俺が書いた文章よりも、巨乳のお姉さんが書いた文章の方が需要あるんだよ」


「そりゃそうかもな」



フォークを刺しこむ。土台の生地がサクッと割れる。


「とにかく、俺はこのままオナニーで終わる気はないよ。今年中に5本、小説書く」


そして、必ず賞を獲る。箔をつけて、作家になる。


これが僕の今の夢であり、目標だ。


「でもお前、小説書くの苦手って言ってなかったっけ?」


「そろそろ逃げるのも飽きたから」


友人は僕から視線を逸らし、窓の外を眺めながらため息をついた。


「相変わらずお前の話は抽象的すぎて分かんないわ」


数ヶ月前、当時付き合っていた彼女に同じことを言われた。


彼女の言葉は、僕の心臓のど真ん中をライフルでぶっ放した。「逃げるな」と言われた気がした。


「じゃあ、また書けたら教えて」


「おう。じゃあな」



最強寒波が来ているはずなのに、何故だか今日の空は晴れ渡っていて、吉祥寺の街には陽気が溢れている。


間違いを探すのはもうやめた。完成した絵は額縁に入れて、寝室に飾るのが良い。


立ち止まり、マスクを外して深呼吸する。


空を見上げる。


「最高に楽しい半年だった」


新しい生活と挑戦が始まり、心模様が晴れ渡っていた。


いつか夢を掴んで、それが3年後か10年後か20年後かは分からないけど。


ここじゃないどこか先の未来で会えたら。


顔を合わせた瞬間に、吹き出してしまうだろうな。


やってやろうぜ。


冬もどうにか越せそうだからさ。


バイビー。

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