「私たちの人生は、交わろうとしなければ交わらなかった」
去年の今頃何をしていたか、スマホに保存された写真を見返してみる。
大好きな友人の結婚式でダンスを踊ることになり、練習に明け暮れていた。
たった1年前のことなのに、懐かしくて、遠い昔のように感じる。
そう感じたのは、この1年の間に、自分の中の世界が大きく変わったからだ。
いや、大きく変えられたからだ。変えてくれた人と出会ったからだ。
仕事もプライベートも充実していたが、ふとした瞬間にある女性のことを思い出しては心臓が重たくなり、病み、布団で寝込む日々。
微かに感じていた可能性が一本の電話によって消失したとき「もうこれ以上、引きずるのはやめよう」と、3年間の想いに区切りをつけた。
世界を変えてくれた人と出会ったのは、2月頃だった。
初めて会って、家に行って、棚を作って、僕らは抱き締めあった。
「この人かもしれない」と思った。
近付いて触れ合って、安心して笑いあった。
僕の人生で、このセリフを言う日が来るとは思わなかったし、本気でその気がなければ言わないと決めていた。
「結婚を前提に付き合ってください」
笑えてくるし、きしょすぎて鳥肌が立つ。
「私は今の私が好き」
ワインを飲みながら彼女が放ったその言葉は、僕の中の世界をひっくり返した。
「強い人だなこの人は」と思った。
何だかその場で抱き締めてあげたくなった。そして僕も、自分を好きになりたいと思った。
それまで僕は、自分は自分のままでいいと思っていた。いつもふざけていて、卑屈で、自分のことが大嫌いなくせに、自分に甘い。
髪型もキメなくていいし、ファッションだって勉強しなくていい。そういう自分を愛してくれる人と出会えばいいと信じていた。
自分が変わるために何か努力するなど、微塵も考えていなかった。
自分を好きになるために努力して、もっと彼女を夢中にさせたい。そう思うようになった。
世界が変わっていく音がした。
彼女との関係が終わるのは、紛れもなく僕のせいである。
何からどう説明すればいいのか分からないので、この件に関してはまた別のエッセイとして投稿する。
とにかく、この1年で僕の人生は大きく変わった。世界が変わって、人生で最も大切だと思えた女性の手を自ら離した。
たまらなく愛おしいと思ったり、腹が立ったり、嫌いだと思ったり、どうでもいいと思ったり、ここ数ヶ月で彼女に対する僕の心情は何度も変化した。
でも最後の夜に、本当に最後の瞬間が来たときに、思い浮かんだ言葉は「出会ってくれてありがとう」だった。
出来れば、君とずっと一緒に生活を送りたかったです。
くだらないことで笑って、ソファに座りながら映画やドラマを観て、居酒屋でハイボールとレモンサワーを飲んで。
そんな生活が続いてほしかった。
生活に余裕が出てきたら、どこかの高級レストランで、ティファニーブルーの婚約指輪でプロポーズしたかった。
それが君の願望だったから。
「私たちの人生は、交わろうとしなければ交わらなかった」
長い人生の中で、1年にも満たない時間だったけど、君の人生と交れて本当に幸せだった。
「僕らの人生は、交わるべくして交わった」
君のように上手いパンチラインにはならなかったけど、今はこれが全て。そう信じている。
もう二度と交わることはないけれど。
最後まで大好きだった。
ありがとう。さようなら。
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