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農林業向けSBTガイダンスがとうとう完成!

「森林・土地・農業の科学に基づく目標設定ガイダンス(Forest, Land, and Agriculture Science Based Target Setting Guidance)」のドラフトが公開され、パブリックコメントが募集されています(2022年2月18日)。

COP26で、ネット・ゼロの実現には、森林減少防止やネイチャー・ベースド・ソリューションが重要であると改めて認識されました。このガイダンスの発表は、企業活動と森林とネット・ゼロを具体的に結び付け、行動を起こすためのきっかけになるかもしれません。本稿では、ごく簡単に概要を紹介します。

科学に基づく目標(SBT)とは?

SBTイニシアティブは、「地球温暖化を産業革命前の水準よりも2℃以下に抑制し、1.5℃に抑制するための努力を追求する」というパリ協定の目標を達成するために、最新の気候科学が必要と示す内容に沿った目標設定と目標達成のための行動を企業に求めています。このイニシアティブに参加している日本企業は100社を超えています。

FLAGセクターのSBTとは?

これまで、SBTは、森林・土地・農業(FLAG : Forest, Land, and Agriculture)セクターを考慮していませんでした。しかし、世界の年間温室効果ガス排出量の約25%は、農業、林業、その他の土地利用に起因しています。さらに、世界人口の増加に伴い、農業生産量は2050年までに倍増すると予想されています。このガイダンスは、土地集約型のFLAGセクターの企業が、壊滅的な気候危機を回避するための行動を取れるようにすべく開発されました。

FLAG目標の設定が求められる企業とは?

このガイダンスのドラフトでは、下記に該当する企業は、土地関連の排出量と吸収量を計上し、2022年9月からFLAG目標を設定することが求められています。

1. バリューチェーンにおいて、以下の土地集約型活動を行っている企業

  • 林産物・紙製品(林業、木材、パルプ・紙、ゴム)

  • 食料生産:農業生産、動物由来

  • 食品・飲料加工

  • 食品小売業

  • たばこ

2. 上記以外で、以下いずれかに該当する企業

  • 収入の20%以上が森林、土地、または農業に起因する

  • スコープ1、2、3全体の排出量のうち、FLAG関連排出量の合計が20%以上を占める

FLAGで考慮される排出量と吸収量とは?

このガイダンスは、土地関連の排出と吸収の算定と、科学的根拠に基づく目標を設定するための標準的な方法を提供しています。算定には以下が含まれます。

  • 土地利用変化(LUC: Land Use Change)によるCO2排出(家畜飼料関連を含む)

  • 土地管理(非LUC排出)からの排出(主にN2OとCH4、農場内の自動車や肥料生産に関連するCO2排出も含む)

  • 炭素吸収と蓄積(森林管理の改善、アグロフォレストリー、植林/再植林、土壌有機炭素蓄積、バイオ炭)

また、FLAGの目標設定には、次の2つのアプローチが用意されています。

  1. FLAGセクター・アプローチ:様々なFLAG排出源がある企業向け

  2. FLAGコモディティアプローチ:牛肉、鶏肉、乳製品、トウモロコシ、パーム油、豚肉、米、大豆、小麦、木材・木質繊維の10種類に特化)

注目ポイント

今回公表されたFLAGセクターのためのSBTガイダンスで、私が特に注目しているのは、FLAGセクターの目標を他セクターから完全に切り離し、独立したものとして取り扱っている点です。FLAGの排出削減量は、FLAG目標の達成のみに計上されます。

従来の非FLAGセクターの削減目標にFLAGの削減量を使用すること、つまり、化石燃料使用由来の排出削減を、森林由来の排出削減量や吸収量でオフセットすることはできないのです。例えば、自社のサプライチェーンにおける農業活動に起因する排出削減量を、施設やオフィスの排出削減目標達成に使用することはできません。

世界全体がネット・ゼロを目指すようになり、カーボンオフセットへの考え方も変わってきています。これは、森林由来のカーボンクレジットにも影響を及ぼすかもしれません。これまで、森林カーボンクレジットは、企業の化石燃料由来の排出のオフセットに使用するために取得されていましたが、そのような計上方法は主流ではなくなる可能性があります。むしろ、自社のバリューチェーンの外での排出削減への貢献として評価されるようになるのではないでしょうか。

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
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文責:山ノ下 麻木乃 IGES生物多様性と森林領域 ジョイント・プログラムディレクター(プロフィール

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