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なぜ企業の「森林減少ゼロ」目標は2025年なのか?

先月末、科学に基づく目標設定のためのイニシアティブ(SBT)のもと、森林・土地・農業(FLAG : Forest, Land, and Agriculture)セクター向けのFLAGガイダンスが最終化され、いよいよ本格始動することとなりました。

同ガイダンスの注目すべき点のひとつである他セクターからの独立性、すなわち化石燃料使用由来の排出削減を、森林由来の排出削減量や吸収量でオフセットすることはできないことは、以下の記事でも解説しました。

今回はもうひとつの注目すべき点である、企業による「2025年までに森林減少ゼロ目標」についてご説明します。

今回のFLAGガイダンスは、企業に対して、土地セクターに関する温室効果ガスの削減目標に加えて、2025年までの森林減少ゼロ目標(no-deforestation commitment)を設定することを求めています。今、世界で森林減少をゼロにしなければならない理由は、土地セクターにおける温室効果ガス排出量の約8割が森林減少に伴い排出されており、企業がパリ協定の長期目標(いわゆる1.5度目標)と整合した目標を設定するためには、森林減少をゼロにすることは避けて通れないからです。

と、ここまで読んで、「なぜ政府は2030年で、企業はそれより5年も早い目標年を設定する必要があるの?」との疑問を持たれる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
同じ森林減少ゼロ目標でも、日本を含めた各国政府が合意するグラスゴー・リーダーズ宣言といった国際的な約束は2030年を目標年としています。FLAGガイダンスの出典をたどると、企業の目標を2025年とした3つの理由が見えてきました。

  1. 行動変化に要する時間の確保:最新の科学によると、1.5度目標達成には、遅くとも2030年までに森林減少をゼロにする必要性がある。2030年までに森林減少をゼロにするには、行動変化に要する時間を考慮しなければならない。

  2. 企業による優良事例の存在:2021年に森林減少ゼロ目標を公表した企業のうち、75%が目標年を2025年あるいはそれよりも前に設定している。これは、企業による2025年までの森林減少ゼロ目標の実現可能性を示すものである。これら先進的企業の取り組みを後発企業にも広げ、さらなる森林減少を引き起こさないためには、目標年を2025年とすることが適当である。

  3. 強いシグナルの発信:行動変化を促す強いシグナルを出すことが重要であり、企業向けには2025年までに森林減少をゼロにするという目標を設定した。

行動変化に要する時間の確保、先進的企業の実績をもとにした実現可能性、そして行動を促す強いシグナルの必要性の3点から、2030年ではなく2025年を設定したということがおわかりいただけましたか?

ちなみに、②の企業としての森林減少ゼロ目標を公にしている企業は、調査に参加した企業の30%にしか達していません。だからこそ、SBTでは先行企業を科学に基づいた目標設定の世界標準とし、森林減少ゼロ目標を達成する動きを大幅に加速させようとしているのだと思います。

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「もっと知りたい世界の森林最前線」では、地球環境戦略研究機関(IGES)研究員が、森林に関わる日本の皆さんに知っていただきたい世界のニュースや論文などを紹介します。(このマガジンの詳細はこちら)。
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文責:梅宮 知佐 IGES気候変動とエネルギー/生物多様性と森林領域 リサーチマネージャー(プロフィール

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