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バンド 【完結】

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2022年6月の記事一覧

【小説】 くだらない、恋心。

 結局、レコーディングは有無を言わさず始まった。私は心と身体が分離したまま参加するしかな…

井川文文
2年前
5

【小説】 当たり前を続ける世界

 当たり前のことを続けるって、本当に難しい。そんなの当たり前でしょ。当然じゃん、って頭の…

井川文文
2年前
10

【小説】 女友達という関係。

 阿南さんから早速メールがきた。「いい曲だと思うし『悲愴の唄』っていうタイトルもいい。今…

井川文文
2年前
11

【小説】 小さな一歩の繰り返し。

 燃え尽き症候群は一瞬だった。燃え尽きたはずなのに、すぐに火がついた。全国ツアー翌日から…

井川文文
2年前
4

【小説】 打ち上がって、雲ができる。

 大人は打ち上げが好きらしい。お酒で顔を赤らめ、口から疲労を吐き出すように、意味もない言…

井川文文
2年前
3

【小説】 悲愴の歌

 ベッドに倒れ込んだ。固い。体温がない。ホテルのベッド。部屋がムシムシする。壁にくっつい…

井川文文
2年前
8

【小説】 三重奏、トリオ。

 ライブが終わってから、誰もアキちゃんに話しかけることは出来なかった。これまで通り「お疲れ」とか「楽しかったねえ」とか言うだけ。だってそうだよね。アキちゃんは、いつも通りに歌っただけなんだから。なにか新しいことをしたワケでもないし、誰かに迷惑をかけたワケでもない。ただ、これまでとはナニカが違うパフォーマンスだった。誰も太刀打ち出来ない、巨大な存在感を放っていた。同じステージに立っていた私たちだけが分かること。こちらが恐ろしくなるほど、底知れぬエネルギーだった。  一番影響を受

【小説】 2度目の出会い。

 ギターのアルペジオが響く。ポロポロンと指が弦をはじく音。アンプに乗って、エレクトリック…

井川文文
2年前
6

【小説】 数秒の休憩。

 無双状態、という言葉がある。他に敵なし。唯一無二。ライブをするって、まさにそれ。世界か…

井川文文
2年前
5

【小説】 ライブに潜る。

 耳をつんざくような歓声。地方都市の方が、ライブは熱い気がする。ここに来たかっただけなの…

井川文文
2年前
17

【小説】 たったの数時間。

 たったの数時間で世界が変わる。同じ言葉を使っているはずなのに、少しずつニュアンスにズレ…

井川文文
2年前
3

【小説】 それぞれの前進

 たぶん、キーボードのタッチが上手くなった。といっても、ピアニスト的な上手さではない。以…

井川文文
2年前
4

【小説】 恋の終わり。

 森口リオンのピアノのコンクール出場が決まった。学校内での熾烈な選考を通過し、戦前から続…

井川文文
2年前
6

【小説】 朝の届け物

 よく眠れなかった。何度も同じ夢を見て、何度も起きてしまった。「このバンドであり続けられないと思ったら、私は死にます」というアキちゃんの言葉が、頭の中をぐるぐると、こだましてる。うるさかった。スイッチを切るみたいに、自分を鈍くできたらよかったのに。  夢の中で私は、森口リオンと手を繋いでいた。冷たい手が、私の手の中にあった。女の子みたいに細くて白い指が、ピアノの鍵盤を叩く時みたいに私の指に絡まっていく。ショパンの「英雄ポロネーズ」がどこかで流れている。表情豊かな情熱的で美し