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【小説】 女友達という関係。


 阿南さんから早速メールがきた。「いい曲だと思うし『悲愴の唄』っていうタイトルもいい。今回は茂木さんの希望通り、『ReRe』と二曲のレコーディングでいこうと思う。メンバーにはこれから投げる感じだよね? それを考えるとスケジュール的には……」と、ベタ褒めだった。全国ツアー終わりだからか、文章から伝わる熱量が高い。私は軽く返信してから、すぐにみんなに連絡を入れた。鬼だよね。マキコちゃんに至っては、大学受験を控えてるってのに。問答無用でレコーディングなんだから。

「鬼ですねw」
 案の定、マキコちゃんからの返信。「でも最高w」だって。プロ意識、高すぎ。メンタル強すぎて、年下とは思えない。おばけ。

「イヤだ、疲れた」
 これが普通の反応。ミウは素直に断った。断ったところで状況は変わらないけど、ミウは自分の気持ちを伝えてくれる。だから気持ちがいい。きっと阿南さんが美味しい差し入れ買ってきてくれるよ。だから、頑張ろ。

「お疲れさま。すっかり作曲を任せちゃって、ごめんね。ありがとう」
 アキちゃんは自分も作曲するから、そんな作り手の気持ちに寄り添ってくれる。優しくて、温かい。でも、違うの。私が勝手に作りたくなって、勝手にマネージャーに連絡してるだけだから。そうしたいだけだから、謝らないで。アキちゃんも多作タイプの人だから、どんどん提案してもいいんだよ?

 メールを打ち終わってから一息つく。いつもよりココアが甘く感じる。脳が疲れたのかもしれない。簡単に済ませているようで、一人一人のメールの文章には気を使った。

 自分が想像以上に女であることを痛感した。女友達という関係を長続きさせるためには、身辺の変化が限りなく少ない方がいい。急に大人っぽくなったり。お金持ちになったりしたら、関係が終わってしまう。でも、私たちは女友達という枠をとっくに超えている。男の子みたいに、仲間ってカッコよく言えればいいんだけど、そういうワケにもいかないんだよね。聖域みたいな壁はお互いにあるから、家族とも呼べない。不思議な関係だと思う。
 誰がか変化すれば、お互いに作用し合ってしまう。そんな関係。そちらが恋愛をして大人っぽくなったなら、こちらは音楽にのめり込んで対抗する。見た目が急に可愛くなったら、負けじと服装を変えてみる。ライバル意識は持ってないけど、そうやって変化の相乗効果で関係が保たれていた。

 アキちゃんがライブで化けた。本気を出した。誰もが圧倒されてしまった。だから私は曲を作る。ミウはプライベートを充実させる。マキコちゃんは学業と音楽の完璧な両立。各々のベクトルで、自己と向き合う。言葉はないんだけど、なんか、女って感じがした。

 時間が経つのが遅く感じる。作曲が終わると、いつもそう。田舎にいるみたいに、のどかな空気が流れる気がする。この世界が、好き。エンターキーをパチンと叩いた後のような、爽快感。

 目を閉じると、時計の秒針の音が聞こえる。
 かち、かち、かち。
 ちょっと、このまま、休憩させて。

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