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【小説】 当たり前を続ける世界

 当たり前のことを続けるって、本当に難しい。そんなの当たり前でしょ。当然じゃん、って頭の中の自分も誰かと同じ言葉を呟いているんだけど、どうしても身体が動かないときだってあると思う。それを分かって欲しいけど、それを世間は“言い訳”っていう。

 久しぶりに体調を崩した。しかも変な崩し方。身体がダルいのに、精神はピンピンしてる。動きたくても動けない。やる気満々なのに、身体がついていかない。そんな状態。
 みんなにメールを打つまでは元気だった。昼寝して、目が覚めたら、身体が動かなかった。その瞬間から、何もかもが白黒の世界になってしまった。人は単純で自分勝手な生き物だ。世界から色が消えると、身体が反応しない。感覚が反応しなくなる。頭の中ではブツブツと戯言が浮かぶけど、いかんせん身体が反応しない。気持ち悪い。

 しかも、この状態が想像以上に続いてしまった。病院に行ったら、「夏風邪ですかねえ」の一言で終わり。薬を飲んだって、世界が彩られることはなかった。レコーディングのスケジュールが迫ってきているのに、何も動かない。ただ、時間だけが過ぎていく。石みたいに固まってしまっている。
 原因が分からなかった。こっそり、マネージャーに連絡したけど、「そういう時期って必ずあるよ」と的外れな返答で、ため息が漏れる。だからといって、スケジュールをズラすことはしてくれない。そこは、大人として来て当然、できて当たり前ってやつなんでしょう。この世界には、苦しみの中だからこそ生み出されるクリエイティブがあるはずだ、なんて信仰すらある。知ってるから。
 そういうことじゃない。そういうことじゃないんだよ。


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