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先生だって帰りたい

「先生って、先生らしくないよね」
教員1年目、部活動の休憩中に生徒から言われた。「なんで?」と聞くと、「他の先生は『帰りたい』なんて言わないから」という答えが返ってきた。
当時の私は、部活中に生徒から「もう疲れた。帰りたい!」と言われると、「先生も帰りたい! でも、帰られへんのよ。一緒に頑張ろうや」と返すのがお決まりだった。なるほど、他の先生は生徒の前で「帰りたい」なんて言わないのか。

今までいろいろな先生と関わってきた。先生たちはいつも、笑顔で明るく生徒と接している。さすが「教育のプロ」だ。しかし、自分の疲労や苦悩を生徒に見せる先生は少ない。疲れた顔を見せるのは悪いことなのだろうか。

先生だって人間で、教員だってお仕事だ。朝起きて「今日も頑張るぞ」と思える日があれば、「行きたくねぇー」と心の中で叫ぶ日もある。自然と笑顔がこぼれることがあれば、まぶたが重くて頭がくらくらすることもある。働けば疲れるし、つらい時はつらい。そんな当たり前を全て遮断して、生徒に感じさせないのはもったいない。教員が働く姿は、生徒が「働く」とは何かを考える良い教材になるはずだ。

学校は夢や目標を掲げる場所だ。将来の夢を思い描き、生徒が前向きになれるような時間があるだけでいいのかもしれない。でも、学校は現実を生きる力を養う場所でもある。お金を稼ぎ、社会に貢献することの大切さと大変さを学ぶ権利が、生徒にはある。

もちろん、中学生に「これが現実だ」と自分の疲れを全て見せびらかす必要はない。教員としていつも明るく元気でいる。生徒の喜びや悲しみに共感し、学校生活を一緒に楽しむ。それでも、時々疲れた顔をしてみる。「どうしたの?」と聞かれると、「昨日遅くまで仕事してて」とか「今忙しい時期で」と言ってみる。いつも楽しそうにしているけど、やっぱり仕事って大変な時もあるんだなぁと思ってくれたらいいな。夢と現実を上手く表現できるようになりたい。それが生徒の未来のためにできることだと思う。

私は今、非常勤講師として働いている。パートタイムでの勤務のため、生徒よりも早く帰る日が週に数日ある。生徒からは「先生なのに先に帰るのズルい」とか「私たちが帰るまで待っててや」と言われることもある。そんな元気あふれる生徒たちに、私はこれからも少し眠たそうな顔をして言おうと思う。伝えようと思う。
「先生だって帰りたい」


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