マガジンのカバー画像

童話「ぼくはピート、そしてレイじいさん」

28
短編の連作童話です。全27話。最後に「あとがき」も。 魔法を使わない魔法使いのレイじいさんと少年ピートくんの物語。 グリーングラス島の人たちと動物たちと共に、成長していくピートく…
運営しているクリエイター

#短編

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第3話

第3話 「パシノン草のこと」 パシノン草は、 夜に咲く。 日暮れ頃から、 小さなつぼみが 顔を出し、 月が光る頃に、 ひとひら、 ひとひら、 花びらを開く。 夜に咲く 雲の花だ。 僕たちは、 さっそく、 パシノン草を 探しに行く。 昼間に、 大きな雲が出たら、 パシノン草が咲く 合図なのだ。 「いいかい。 ピートくん。 パシノン草に、 気付かれたら、おしまいだ。 パシノン草は、 人知れず咲く花だからね。 気を消さなければ 見ることができないぞ」 レイじいさんの言

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第4話

第4話 「イルカレター」 海の向こうには虹がある。 虹の向こうには 見えない島がある。 その向こうには 知らない島があって、 そのことを知るには、 イルカに聞くといい。 イルカは、 海と空の境目を しゅーしゅるるるっと やってくる。 そうして、 イルカの口からはき出された、 レター船長と その奥さんから、 いろんな不思議な話を聞く。 「私は、風の生まれ変わりなんです。」 レター船長は、 そう言って、 みんなに手紙を配る。 遠い島に住む人たちから、 このグリーン

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第5話

第5話 「星屑の人」 夢の中で、 銀色の声がした。 「ソトニ デテ オイデヨ」 僕は、 目を覚まして、 外に出る。 外は、 昼の青空と 夜の星空が混ざっていた。 その空から、 銀色の声が降ってくる。 「ピートクン」 星屑の人だった。 星屑の人は、 夜を守る人で、 大きな木と 風と星の体を 鈴を揺らすように チリチリ、 リリリリカチャカチャ 小さな音をたてながら歩く。 「ユメヒロイヲ シヨウ」 「ユメヒロイ?」 「空から、 いくつもの夢が流れてくる。 それ

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第6話

第6話 「古代の夜」 「あかねふしぎの空の下、 輝く馬の群れ、 幾と千。 皮膚に美しき紋様ある馬には、 小人たち。 立ち上がり、 ひっくり返り、 奇妙に体をくねらせる。 中でも、 ひときわ金に輝く輪の月の馬には、 王女のように振る舞い、 妖精のように歌う 冠姫。 天と地と愛の歌は、 暗闇に 空が溶けるまで鳴り響く。 その時に見よ。 馬は、 一斉に片足を上げ、 挨拶をする。 小人たちは、 髪を逆立て宙返り。 冠姫は、 微笑み、 マイマイの踊り。 激しく 優雅に 繰り返され、

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第7話

第7話 「実りのパレードと青空マーケット」 実りのパレードには、 みんな、 とびきり背の高い竹馬に乗って参加する。 なぜなら、 雲の上の青空マーケットに 顔が出せないからね。 青空マーケットには、 大きな雲に乗った人たちが たくさん やってくる。 あちこちから 珍しい食べ物や 手作りの家具とか 鞄とか帽子を持ってくるんだ。 そして、 僕たちの 持っているものと交換する。 僕とレイじいさんは、 竹で、でっかいピーターを作った。 ピーターは、 竹でできた大きな人形。

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第8話

第8話 「サヨナラの月」 待っている。 僕は、待っている。 橋の上で。 おもちゃの 赤いトラックには、 いくつもの積み木が乗っていて、 僕は小さな頃、 その積み木を並べたり、 積み上げたりして遊んだ。 でも、 その赤いトラックと 僕は、サヨナラをした。 おもちゃとのサヨナラは、 ある日、 突然やってくる。 「もう、いいかな」 と突然思ってしまうのだ。 何の前触れもなしに。 それで、 僕は、 その赤いトラックを 工場に持っていった。 レイじいさんは、 古い黄

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第10話

第10話 「物語の続き」 「時をなくした ウサギの話を 知っているかい?」 レイじいさんは、物語る。 春を告げる春ウサギ。 ある時、 胸を飾る金色の 時のボタンを なくしてしまう。 時のボタンは、 春の知らせ。 どんなに探しても見付からず、 春は、 いくら待ってもやってこない。 「それで、どうなっちゃったの?」 僕は、 物語の続きを聞く。 「冬さ。 ずーっと 冬のままなんだ」 その時、 ネズミのジーポが 慌てて部屋の壁の穴から 顔を出した。 「大変! 

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第11話

第11話 「僕の将来」 青い光に日は落ちて、 対岸の姿が 少しずつ見えなくなっていく。 「しかし、惜しかったよなぁ」 「まあ言うなよ。 みんな、がんばったんだし」 船の中で、 みんなは、 ナッツ酒を飲みながら、 おしゃべりしている。 僕は、 船の一番後ろに腰掛け、 ナッツジュースを飲む。 「やっぱり5回裏だよな。 ピッチャー、ピートくん、 大ピンチの二死満塁でさ」 「バッターは、 トラヒゲのゲイリーさん」 「カキーン! ホームラン! だもんなぁ」 「ピートく

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第12話

第12話 「時間の旅」 音楽の源を 探す旅に出た。 古い自動車を 空色に塗り替えて。 僕とレイじいさん、 それから 犬のポリと 猫のファニも一緒だ。 「コロボル族の眠る、 合い塚に行けば、 手掛かりが見付かるかもしれん」 レイじいさんは、 子供の頃に、 おばあさんに歌ってもらった コロボルドッポという歌を 思い出そうとしている。 それは 昔々、 この島に住んでいた コロボル族の歌で、 今はもう 誰も覚えていないもの。 忘れ去られた 昔の歌を取り戻しに 僕たちは

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第18話

第18話 「クロスロード」 ドゥンドンドゥンドン、 バスが来る。 朝一番のバスは 幾人かの人を乗せ、 そして降ろし、 最後の一人になった僕。 「よい旅を」 運転手さんは 軽く手を上げ微笑んだ。 終点は山の麓。 そうだ。 僕は、旅に出る。 僕は、 誰もいなくなった山道を ゆっくりと歩み始めた。 リュックの中には 水筒とパン。 レイじいさんには 何も言ってこなかった。 僕は、 一週間ばかり前から 毎日 同じ夢を見続けていた。 その夢は、 ここにつながってい

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第24話

第24話 「ドアの外」 平和の風が吹き荒れていた。 レイじいさんは、 一日中、窓の外を見ている。 僕には、 何かが分かりかけていた。 レイじいさんは、 翌朝、鐘の丘に登り、 塔のてっぺんの鐘を鳴らした。 島中の人々は驚く。 鐘の鳴る時は、 百年に一度。 島は、 大きく変わる時だった。 「平和の次に来るものは何だい?」 レイじいさんの問いに、 僕は、 硝子の中にある宇宙を考えた。 僕は、 硝子を割る。 粉々に砕けたかけらは、 星のように 美しく尊い。 「

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第26話

第26話 「予感の音」 曇り空の下を歩いていたら、 ニルンの高い木々の間に 先の尖った塔が見えた。 今まで気付かなかったのは、 そのニルンの高い木のせいなのか 霞むような塔の色のせいなのだろうか。 近付くと 塔の周りは深い緑の生け垣で、 中を見ようとしても 葉と草が邪魔をする。 塔は 離れて見ると 霞み 近寄ると 見えなくなるのだ。 僕は ぐるりと その生け垣の周りを歩く。 すると、 どこからか ピアノの音が聞こえてきた。 風のなびく音と混ざりあって 一音一音