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七屋 糸
2018年7月3日 15:06
旅の始まりは、いつも彼の言葉だ。「今度の休み、釣りに行こうと思って」一人で、という意味ではない。二人で行こう、という意味だ。彼の誘い方は少し曖昧で、少し自信なさげ。前日の夜に海を訪ね、早朝から釣竿を持って繰り出した。しかし結果はまずまずの惨敗。聞くところでは釣り糸を垂らせばたちまち魚がかかるということだったのだが、私は小魚を一匹、彼は四匹釣ったきりだった。彼は少しばかり肩を落と
2018年7月3日 12:25
炎天下のアスファルトは、タイヤも溶かすらしい。一心不乱に溶けた自転車を漕ぎながら、信号で止まるたびに水分を補給する。進むたびにちゃぷちゃぷと水っぽい音を立てながら、彼に家へたどり着いた。チャイムを鳴らす。誰も出ない。しかしシャワーを浴びる音がする。ゆっくりドアノブを回すと、あっさり開いた。狭い6帖のワンルームの真ん中に、彼が眠っていた。少し蒸した部屋が気持ち悪い。薄暗い