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パン屋日記 #14 おじいちゃんのダッフィー

当店のお客さまには高齢の方が多く

お盆やお正月になると、ここぞとばかりに
帰省した孫を引き連れてやってきます。

あるおじいちゃんは、
社会人になったばかりとおぼしき
ギャルギャルしいお孫さんと一緒に
モーニングを食べに来られました。

おじいちゃんはリュックにふわっふわの

「ダッフィー」こと
ディズニーランドの熊のキーホルダーを付けられ、

キティちゃんのポーチに
キティちゃんのサンダル

ほとんどパジャマのような服を着た孫の
職場の愚痴を、

いつまでもいつまでも聞かされています。

「やけんここよ! なんでわからんのん!」
と罵られながら

孫に、スマホで、

「ポケモンGO」のいろはを
叩き込まれています。 


かわいそうだなあ、と思っていました。

おじいちゃんの方は、
張り子の人形のように
うんうん頷くばかりなのです。

ある日おじいちゃんは、リュックに付けていた
ダッフィーのキーホルダーを
店内に落として帰ってしまいました。

(あの孫に、ひどい目に怒られるのでは?)

パン屋に戦慄が走りました。

(次回お見えになられた時に、必ずお渡ししよう)

そして次のご来店時に
スタッフが驚いたことは、

「たしかに、あのおじいちゃんですよね?」

「ええ、たしかに、あのおじいちゃんで
 間違いないはずなんですけど……」

お一人で来店された
ダッフィーのおじいちゃんは

あれ、あんなに、
腰が曲がっていたかしら。

あんなに、
ぼんやりしたお顔だったかしら。

あんなに小さくって、
あんな服装や髪型だったかしら?

そう


一緒にモーニングを食べながら
ギャルギャルしい孫の愚痴を聞くことは、

そのお客さまの、元気の源だったのです。


よくよく考えてみれば、

自分のおじいちゃんに
本気で職場の愚痴を話す孫が、
どれほどいるでしょうか?

無理やり教えてまで、
わざわざおじいちゃんと一緒に

「ポケモンGO」をする必要はありますか?

パン屋といたしましては

(あの孫、よく考えてみたら
 おじいちゃんのこと、すっごい好きだよね……)

という結論に達しました。

「お客さますみません、先日、
 こちらのキーホルダーを
 落とされませんでしたか?」

ダッフィーと再会したおじいちゃんは、
またたく間に輝く笑顔。

おそらく孫にもらったであろう
ダッフィーのキーホルダーを、

両手で包んで大事そうに
持って帰られました。

ちなみにこの「ダッフィー」という熊は、

「長い航海の間、ミッキーが
 ひとりぼっちで寂しくないように」

という想いを込めて

ミニーちゃんがミッキーに持たせた、
手作りのテディベアなのだそうです。

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