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名詞/Noun

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2018年8月の記事一覧

『シルバーシート』#230

いまは優先席と呼ばれているあの電車の端っこの三席。“シルバー”という呼び方が高齢者に限定してしまい、妊娠者や障害を持った人を含まないような印象を与えてしまって良くないとか、そういう、知った言葉では“ポリティカルコレクトネス”、言葉の上で意味の取り違えや印象のズレを無くすための最大公約数的な名称を、ということで、優先席になった、のは私が小学生だか中学生くらいのこと。あのころでも、ばかばかしいな、と思ったもので、朝のニュースで新橋駅前のインタビューが流れて「(優先席に名称が変わっ

『出隅』#227

27歳頃、働き始めて2年くらい、担当物件の現場がじわじわと進んできたころ、家の中で足の小指をぶつけた。次の日、ひょこひょこ歩いているところを見られて、どうしたのかと尋ねられた時に出た「昨日、家の壁の出隅に、足の小指をぶつけてしまって」と何気なくそう言葉が出てきた。「あぁ。」とそっけない返事をもらってそのまま会話は終わった。ふと、時間が経ってからそのことを思い出したとき、「角、じゃなくて、出隅、って言ったな」と引っかかった。 建築、建設界隈では建物の壁の交点、そこを角と言わない

『エビアン』#226

飲み水について最初に書くとしたら、いろはすかなと思った時期があった。それには大した理由もなく、飲み心地とパッケージデザインが好きだからだというだけのことで。かつて伊右衛門について書いたことがあった気がする(あった。#92だ、そしてそれを調べたときに一緒に、過去にミネラルウォーターについて書いたときがあった#106で。)けれど、パッケージデザインによって味よりも優先して購買へ結びつく場合があると知ってて、ミネラルウォーターなら断然いろはすなんだけど、ときどき、ときどき駅の自動販

『連続』#225

必ずしも文章を区切るときに句読点が必要になるわけではないけれどあればその場で区切ればいいからわかりやすいので使います使いますがしかしじゃああえて使わずに文章を書いたとしたらそれはとても読みづらいものになるだろうことは想像に難くないそれは間違いないから同じ語句を並べて書き手側のリズムで間を取ってみたがしかし読んでみるとそこは連続させなくてはならないのかとも読めて結局全く息継ぎができない。 小説家あるいは文筆家といったほうが職種の意味する内容が幅広くていいだろうか、彼女、川上未映

『お冷』#224

頼んだら負けと思っていた年代と、とりあえず人数分と頼むことを偉いと思っていた年代と、やばくなる前に早々に頼んでおくぞと心得た年代と、とんとんとんと変遷してきた。 今後も変わっていくのだろうか。お冷観は。「お冷なんて無粋だよ、ノンアルコールなら、ちゃんとウーロン茶とかオレンジジュースとかソフトドリンクを選んで頼むもんだよ」とか。「お冷って久しく自分から頼んでないなぁ、いい頃合いでいつも出してもらえるんだよね」とか。生活する界隈次第でまた大いに変わってきそうだ。少なくとも、いま挙

『登山』#220

字の通り山に登る。ハイキング、と一線を画すように思わる登山。山の厳しさに合わせて装備を整え、荷物の大小こそあれ重たいものを背負って時には手を使って枝を掴み身体を持ち上げたり崖を登ったりと、どことなくハイキングとは傾斜が違うものだと認識しているのが登山で、登山には甘さがない。自分の体力と精神力が保つか保たないかと対話を続けながら頂上あるいは目指すポイントへと登り続けていく。そして登山は登るまでで全てが終わることもなく下りて帰るまでもまた同様に苦しさと厳しさが、登るときよりも小さ

『モーニング』#219

字義通りならば朝。意味するところは外でいただく朝食。 仕事前には基本的に、九割九分、家で食べて出る。朝食はしっかり食べる。子供の頃から意図せず家族由来で続いてきた習慣で、まさに「朝ごはん食べないと力が出ない」体なので、しっかりというかがっつり。 牛丼やさんやファミレスのワンコインモーニングセットはあまり馴染みなく、モーニングといえば喫茶店、なイメージが強い。自分の年齢がよくわからなくなるな。イメージはあだち充の南風だ。 旅行を除いて、ふだん外で食べることのない朝ごはんを、モー

『レモンサワー』#218

プリン体とカロリーを気にするようになってから、ビールを飲み続けるのをやめてレモンサワーに継投するようになった。単純にフルーツ&爽快感好きの高じた結果とも言える、前向きな面も大きい。しかし。しかし、夏になったからか、ちゃんぽんがこたえるのか、頭が痛い。それは先日のこと。飲みすぎなのかと反省して、今日は量を抑えた。ビール2杯、レモンサワー2杯。しかし頭が痛い。頭の痛みは前回ほどでは無いにしろ、痛むことには痛む。ただの頭痛でなく、酒の、二日酔いにありがちなあの痛みだ。水をガブガブ飲

『無風』#217

テーマとしては珍しい、気がしてる。接頭辞を含む二字熟語。単なる「風」ではなく「無風」。これでも単語だからアリなわけで。無風、夏の季節には特に「あっ」と頻繁に感じる気象状態。 なぜ、他の季節よりも「無風」を頻繁に感じるかって、先に種明かしというかネタバラシというかオチを先につけてしまうなら、夏は風が吹かなければ暑いからだ。 風が吹かなければ暑い。風が吹くと、気温が高くたって(しかし35度以上になると風でも「暑い空気が鬱陶しい」と感じてしまうので一概に言えなくて困る)いくらか肌に

『カブトムシ』#216

「好きな昆虫はカブトムシ」と言える男の子が、あのころ羨ましかったし何よりすごいと思った。そして、あのころ「好きな昆虫はカブトムシ」と言う男の子が周りにいたのかもわからないし、「好きな昆虫は?」と訊いたこともなかった。 “ど真ん中の男の子像”そんなイメージは、カブトムシとそれに戦隊モノのレッドを憧れる男の子として表象された。でも、そんな男の子はいるのだろうか、というのがあのころ、それは幼稚園から小学六年生くらいまでの10年弱で思い続けてきたことだった。そういう意味では、人と違う

『フォンダンショコラ』#214

通し番号から引いた記憶のくじ。チョコレートやクッキーを代表格としつつ、二番人気っぽく存在感が強めなのがフォンダンショコラ。バレンタインデーの話。 鈍く黒く光る、隕石のような火山の噴石のような肌理をもった、ケーキというには華やかさに欠く、しかし中身と味を勘案すればまず菓子として認めぬこと能わざる、カカオの焼き菓子。チョコレートの焼き菓子というには、あのブロック、あるいは成型板のような硬質な印象から程遠く、原料にまで遡及しなければ語りえないような気がしてここは、カカオのとさせてい

『ホットドッグ』#212

ハマっている。完全に、どハマりしている。毎日どころか毎週食べてるというほどでもないけど、ホットドッグの魅力にやられねしまった、という事実には一切偽りがない。 事の発端はベローチェの340円のホットドッグだし、継続的に食べているのもそのベローチェのホットドッグだし、序盤の少なくとも3本くらいはベローチェの、だし、とにかくハマったきっかけもハマったドッグもベローチェなのだ、という事実には一切偽りがない。 時期がいつだったか、半年前かあるいはもう少し至近か、定かではないけれどホット

『奥歯』#211

物が詰まりがち。歯並びは悪くない。でも、親不知からの圧力を受けてか上アゴ臼歯同士の隙間、歯の付け根にできた空隙に肉の繊維が挟まりがち。 つい先日、朝起きた瞬間の左顎の強烈な痛みと腫れに驚き慄き、即刻口腔外科を検索して休日の夕方から急な予約を取って診察を受けたら「親不知の影響ですね」と言われた。数ヶ月前に、10年単位での久しぶりな歯科検診を受診してレントゲンを取ったら「4本のうち1本だけ内向きに生えてきてるので手前の歯に影響が後々あるかもしれない」と話を聞いたばかりだった。とは

『センチメートル』#210

口語だなという印象で固まった、長さの単位。馴染みのある単位のうちメートルとミリメートルについては公的な印象、キロメートルについては、なんていうか地球的な印象。規模がでかい。印象、とはいえ、理由はハッキリとわかっていて、メートルとミリメートルについては建築設計で基本の単位であるから。主に図面ではミリメートルで記載して、現場での細かな寸法は(ほぼ)すべてミリメートルでの指示となる。ミリメートル以下は扱わず、1ミリ(いちみり)、10ミリ(とおみり)、100ミリ(ひゃくみり)、1,0