『奥歯』#211

物が詰まりがち。歯並びは悪くない。でも、親不知からの圧力を受けてか上アゴ臼歯同士の隙間、歯の付け根にできた空隙に肉の繊維が挟まりがち。
つい先日、朝起きた瞬間の左顎の強烈な痛みと腫れに驚き慄き、即刻口腔外科を検索して休日の夕方から急な予約を取って診察を受けたら「親不知の影響ですね」と言われた。数ヶ月前に、10年単位での久しぶりな歯科検診を受診してレントゲンを取ったら「4本のうち1本だけ内向きに生えてきてるので手前の歯に影響が後々あるかもしれない」と話を聞いたばかりだった。とはいえ親不知の頭が出はじめたのも大学に入るかそのくらいの頃。それから歯茎が「おお生えてきてる裂けてる」と感じるくらい刹那的な違和感だけしか感じていなかったから、「まさかもう、いまさらいま」と驚いた。とはいえまた同じように痛んだ時にはもし家にいたらいいけど仕事中だったらシャレにならないし痛みで働けないし喋れもしない。ということで数日後に抜いた。抜いてもらった。その抜き方はなかなか面白かったのだ。
抜歯の前にいくつか調べた。そのまま抜けるならば麻酔をしてそのままグイッと引き抜く。しかし生え方や成長度合い次第では顎の骨に定着している場合もあって、そのときには歯茎を開いたり歯を割ったりして取り出していくという。歯茎の、歯のホールの中で、歯が4分割とかされる様子を思い浮かべると、リンゴとハチミツのハウスバーモントカレーのCMが頭に浮かんだけれどきっとそんな「パカっ」と割れるでもなくバッキバキに割っていくんだろうと、歯科医師さんの手の方を想像して怖くなった。しかも今回の私の歯は横向きに生えているのだからきっとまともに引っ張る感じじゃないだろうと予期していた。
その予測は、概ねあっていた。概ね間違っていなかったけれど、歯茎は開くこと無かったし、何より歯を分割するそのやり方が面白かった。リンゴを芯で、各面に種子が開かれて見えるあの分割では無かった。土に埋まった大根の、葉と、根の土より上に見えている青い部分、そこを切り取ってから、埋まっている根を抜く、そんな手順だった。よくは見えなかったし、水跳ねがあるから目を閉じていたし、何よりまぁ目を開けていたって口腔内は見えぬ。ただ、事前に説明してもらった方法と、そのあとに見た自分の歯の2つのピースを見て、こんな方法というか、こんな分け方があるのか、と驚いた。見えている部分と少々の隠れている部分、そこを切り取ることで抜きやすくしたのだと言う。とにかく驚いた。
それでいま、穴には血が溜まって固まって蓋がされ、大事に養生されている。手前の奥歯は出番なく、こまめに歯磨きによって刺激を受ける、そんな毎日。そこには何も詰まることもない。ふとプロスポーツ選手のリハビリを想う。

#奥歯 #180717

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