「ジョブ型」への道筋

 こちらの記事の中の各有識者からのコメントを引用しつつ、私見をまとめる。
 つまるところ、「継続的なスキルの習得」(Continuous Learning)がカギを握りそうだ。

1.「メンバー型」機能せず 経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏

現在は「GAFA」に代表される知的生産物を生み出すビジネスモデルが主流となった。企業の形も強い「個」を軸にしたものに変わっていく。

 企業側が求める「スキル」を保有する「個」からしかOutcomeは産み出されない。「個」から産み出されるOutcomeの集積がBusiness Outcomeとなるのだ。組織の「枠」がありさえすればそこに所属する「集団」がなんとなく期待通りのことをやってくれる、という時代ではない。

ジョブ型導入は日本復活の十分条件ではないにしろ、必要条件ではある。

 「ジョブ型」は、必ず通過しなければならないポイントだ。「ジョブ型はもう古い」とか、「欧米でもジョブ型は廃れてきている」などと言い、(一足飛びに)ギグワークの状態を目指すべきだ、と主張するような人も現れた。とんでもない話だ。ジョブの定義という地道な作業を経験することなしに、どうやってさらに細分化された「Work」の定義を実現するというのだろうか。「Work」の定義なしにギグワークの状態は実現できない。

「メンバーシップ型が雇用を保障してきた」などという意見も聞くが、ナンセンスだ。バブル崩壊以降、日本では非正規雇用が増加し、今や伝統的なメンバーシップ型の正社員は全労働者の2割にすぎない。

 メンバーシップ型のほうが従業員にとって「優しい」仕組みだ、というのは幻想だ。「従業員は家族だ」という企業ほど「個」の中長期のキャリア形成に無責任である、ということと同じだ。「頼ってくれ。ただし、言うことは聞いてもらうよ。」「言うことを聞いてさえいれば、ずっと守ってあげるよ。」という甘言にまんまと乗っかるバカは最早いない。「沈むときも一緒」という一蓮托生状態はまっぴらごめんだからだ。

産業の新陳代謝が激しくなるなか、1つの会社がジョブを守り切ることは難しい。企業間の労働移動を促し、転職した場合でも給料が減らずに公正な評価が得られるようにすることが重要だ。

 「守り切るのは難しい。いざというときは自分で何とかしてくれ。」と従業員に向かってはっきり言える企業ほど誠実だ。ただし、「何とかしてくれ」と言うだけではこれも無責任だ。「どこに行っても通用するスキル」を大盤振る舞いで身につけさせるような教育研修体制を整えることが求められる。その企業の中でしか通用しないようなガラパゴス型飼い殺し研修も、いい加減やめよう。飼い殺ししようとすればするほど、賢い人間からそれに気づいて外に出てしまう。

多くの企業の再生に携わってきたが、事業を分割して売却した方が雇用を守れるケースが多かった。雇用はジョブに付随するからだ。企業は社内で特定のジョブがなくなっても、社員が別の企業で雇ってもらえるように教育する責任がある。資格など労働市場で客観的に定義できる能力を高めることがポイントだ。

 まさにその通りであり、「労働市場で客観的に定義できる能力を高める」ということを実現するためには、まずは社内のあらゆるジョブを客観的な指標(スキルコンピテンシーベース)で定義しておく必要がある。これをやっておけば、社内でのスキルギャップを埋める努力をし続けることによって結果的に社外でも通用する人材で居続けることが出来る。

ジョブ型にすると失業が増えるという見方も誤解だ。日本は希望退職や退職勧奨などが(解雇自由とされる)米国よりも容易で、中小企業では不当解雇で泣き寝入りせざるをえない人が多い。ジョブ型の導入とともに解雇ルールを整備し、きちんとした金銭補償の仕組みをつくることが労働者の保護につながる。

 日本のやり方のほうが、一見ドライと思われている米国流よりも陰湿ということだ。真に従業員(労働者)のためになる仕組みとはどのようなものか、を心底から考えてこなかったツケが回ってきている。

2.中間管理職の役割重要 三菱ケミカルHD社長 越智仁氏

人間のQOL(クオリティー・オブ・ライフ、生活の質)を向上する商品やサービスが求められており、それを生み出せる人材が不可欠になっている。人工知能(AI)の進化などで単純作業は自動化されていく。人間は価値を生む仕事に集中すべきだ。

 「生み出せる人材」の要件定義、そして、AI等に任せるべき仕事と人間がやるべき仕事の分類、整理のためにも「ジョブ定義」は有用だ。

今後、会社の中核を担うミレニアル世代(2000年以降に成人に達した世代)は社会問題への関心が高く勉強家だ。自分が会社でこれをやりたいという思いも持っている。中堅や若手のアイデアを採用していくリーダーシップが必要だ。

 リーダーシップのレベルアップももちろん必要だが、一朝一夕にはいかない。そこで、HRテクノロジーによってこれを支援すべきだ。たとえば、「社内でこれをやりたい」という想いに応えるように、「それをやりたいのならこのスキルギャップを埋めるべきだ。それに役立つラーニングメニューはこの2つだ。」ということが「Netflixライク」にレコメンドされる仕組みだ。ミレニアル世代はまさにこういったものを求めている。もちろん、人事制度もそれに伴ったものにしなければならない。

3.透明性高い人事制度を リンクトイン日本代表 村上臣氏

ジョブ型雇用は米国流というイメージがあるが、海外ではアジアも含めて多くの企業がジョブ型だ。

 こういう事実があるにもかかわらず、「ジョブ型でない国・地域もこれだけある」とムキになって主張する人がいる。メリット・デメリットと向き合えば良いだけなのに、一体どうしたものか。。。。。

異動や転勤など会社の指示通りに長期で働く日本とは異なり、海外は「自分のキャリアは自分でつくる」という文化的背景がある。

 「自分のキャリアは自分でつくる」という状態に近づけたいのなら「ジョブ型」に寄っていくしかない。ただそれだけの話だ。

例えば雇用の流動性が高い中国やベトナムでは、同じ会社の従業員が互いに給与を見せ合う。低い方が「同じ仕事でなぜ違うんだ」と上司に詰め寄り、納得できなければ他社に転職する。

 一般的な日本人には、これはなかなかできないことだ。しかし私は、今から20数年前に新卒で入社した日本オラクルで配属後初めてボーナスをもらったときに同じ部署の同期とこれをやって人事に詰め寄ったら滅茶苦茶怒られた。黙っていても売れるRDBMSを担当している同期のボーナスのほうが、どうやっても売れなかった「未完成の」Apps.を担当することになった私のボーナスよりも1.5倍多かったことが許せなかったのだ。

海外では転職する気がないときでも社外情報を収集し、常に自分の市場価値と向き合うのが一般的だ。

 これは必ずやるべきだ。最も手っ取り早いのが、LinkedInにアカウントを登録してスキル情報のタグ付けをしたり職務経歴の情報を整え、最大限「市場」にアピールすることだ。
 同様のことを社内でもやるべきだ。「セルフジョブ定義」と呼んでいるが、自分自分が担当している役割や職務の定義書を自ら作り、その過程でスキルの棚卸しも行い、アピールしたいことについては人事情報データベースに登録しておくとよい。人事は、これを自由に行ってもらえるように環境整備をしておく。

企業は形だけジョブ型にするのではなく、企業と従業員がフェアな関係になるような透明性の高い人事制度の構築が不可欠だ。

 そのためにも、下記のようなCareer GPS(キャリアアップ)を整備して可能性を広げ、どうすればそこにいけるのか、そこに行くためには何をすればよいのか、を誰からでも見える状態にする必要がある。

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 詳しくはこちらの記事も参照

4.役割明確女性働きやすく リクルートワークス研究所主任研究員 中村天江氏

中小企業や在宅勤務の生産性を高めたいだけの企業にとっては、ジョブ型の職務分解や職務記述書の策定が大きな負担になる。この場合は、組織内の従業員それぞれが担う役割を決め、日々のマネジメントや評価、処遇との連動を強化する「役割型雇用」で十分だろう。これは人材を起点にしている点で「日本的ジョブ型雇用」と呼べる。

 この点については私も記事にまとめているので、こちらを参考にして頂きたい。

ジョブ型でも日本的ジョブ型でも、それぞれの役割や職務が明確になると、女性も働きやすくなる。現状では子育て中に出世コースから外れる「マミートラック」など特定のキャリアコースから一度離れたら戻れないことが多い。だが、その時々で役割を変えて働くことができれば、人事制度の個別性が高くなり、管理職や専門職、限定正社員などの職務を行き来できる。

 もちろんこれは、男性についてもいえることだ。副業(複業)もしやすくなるし、「学び直し」にもチャレンジしやすくなる。企業側からすれば外部人材の積極登用や一時的な人材の貸し借り(Loan)、出向先からの呼び戻しも行いやすくなる。

ジョブ型で働く人は、仕事内容や経験に対価が連動するため、自分が望む方向にキャリアを進める努力が必要になる。

 「個」の側にも、自助努力が強く求められる。やはり、「継続的なスキルの習得」(Continuous Learning)がカギを握りそうだ。もちろん、企業としてもそのための環境整備の面で支援していく必要がある。
 従業員側と企業側から、双方から「ラーニング革命」を実現していくことが求められている。

#日経COMEMO #NIKKEI

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